002:階段
屋上から見る町は靄がかかっている。
ハードコートは緑色の池になって、空を映してる。
雨はやんでも、乾くほど太陽が出るわけでもない。
降るなら土砂降りで降れっつーの。
晴れるならカンカン晴れろよ。
今日も部活は体育館でストレッチと走りこみをして終わりなんだろうな。
「物足りねーな、物足りねーよ」
足元に溜まった水を蹴った。
ボールがインパクトする瞬間、俺は最高に楽しい。
ラケットを振り抜いて、黄色い放物線が鋭く走って行く。
音と、風と、熱を作り出す力が自分にあるって感じる。
打てない日が重なると、ストレスばっか溜まる。
じめじめ重たい空気、爆竹100本位鳴らして吹き飛ばしてぇ。
なんであいつは、こういうときも黙々と、室内トレーニングだの、
雨ン中のランニングだのやってるだけで、
いつもと変わんねぇ面で居られるんだろうな。
…いつも不機嫌な面だから、わかんねぇのか。へへっ。
「不気味だぞてめぇ」
「うあ!何で黙って後ろ取るんだよ、こえーぞ!」
「ぶすくれたり、笑ったり、一人で何やってんだ」
「だってよ、濡れてっから寝てもらんねーし」
奴の髪が吹きなびいている。
こんな湿気の中で、何でそんなサラサラなびくんだ?
手を伸ばして、前髪を梳く。
普段なら振り払うのに、奴は幾らか目を眇めただけで、じっと俺に触らせていた。
こういうとき、俺が調子に乗る奴だって、わかってるはずだ。
前髪を分けて、そっと瞼に唇をつける。
少し俺より背が高い奴の首を抱く。
「…お前、何にもしてなくても、体温高え」
シャツに押し付けられてくぐもった声。
「お前と居るから」
「…早く、打ちてぇな」
俺に負けないテニスバカ。
ああ、俺も、早くお前と打ちてーよ。
怒鳴って、取っ組み合って、一緒に走るんだ。
でもさ。
テニスが出来ない日も、
お前と居れば、
あの雲、ぶち抜いて、青い風穴開けられる。
「…ハッピーバースディ」
「サンキュ」
Fin.
この二人は一人じゃ昇れない階段を二人で争って上ってくようなイメージなので「階段」
日記で書いた桃ハピバ話なので日記のログは削りました。