047:ジャックナイフ


このベッドは軋む音が高い。

「…どのベッドと、較べてんの」

ぎしり。彼がのしかかると、さらに大きく響く音。

「さあ、どれかな…」

胸の底に曖昧に沈んでいる名前のない記憶。

猫のような瞳は見たくなかった。

瞑った瞼に降ってくる唇。

そして柔らかく僕の唇を啄む。

風邪かな?と思う位、彼の唇も、指も熱い。

「また、誰かと較べてるでしょ」

シャツの中を這っていく指が、むず痒く脇腹で遊んでいる。

「…体温高いなって思っただけ」

「ほら俺、子供だからさ」

しれっと自分で言ってのける。

「あ、笑った。その顔、好きだ」

さし込まれる掌。

「小生意気で」

「…それは君の専門でしょ」

「まあね。…どう?」

握り込まれて、腰が跳ねる。

「忘れちゃいなよ。エージ先輩とか、自分とか。俺でいっぱいになんなよ。

俺イイ男になるよ。もっと背だって伸びるし…

まぁ今は身長差なんか関係ないけどさ」

横になっちゃえばね、と、彼は手際良く僕を剥いていく。

「越前は…」

「No。リョーマ」

「…リョーマは、脱がないの?」

「だって周助は俺のプレゼントでしょ?プレゼントはラッピング除らなきゃ」

脱がしたい?

くりくりと覗き込む瞳の色は揺るぎ無い欲望。

「僕を壊してくれるなら」

「Okey-dokey, baby」

滑らかな皮膚が孕む熱に融かされたい。

僕はまだ痺れている手でもどかしく彼のジャージを毟り取る。

「No rushing…the night is still young」

遠くでアンジュラスが聞こえる。

「優しくしなくていいから。海堂ほどじゃなくても、僕もそんなに柔じゃないよ」

「あの人は、でも、naiveだったから」

壊れ物みたいに扱ったのが、まずかったのかなあ、

そういって笑った顔にキスすると、

深い傷の味がした。

お互いに大事過ぎて、優しくし過ぎて、

壊れてしまった君たちのどちらも、僕にはいとおしい。

ひたすらに欲しがりすぎた僕と、

自分のエゴ以外の勝手は許さない彼には望みようが無い恩寵を

君たちには願うよ。

「Happy Birthday、リョーマ」

一つ違いになった、今日からの僕の恋人に、

神様、どうぞみ恵みを。



Fin.

お題の菊不二と、リョ海前提のリョ不二。