052:真昼の月
お盆で人が少ない東京って好きだ。
皆、帰ってこなくていいのに。
そんな酷い事を言い放って、不二は微笑った。
ゆったりした生成りのシャツが強い風に煽られて、
白い、平らなお腹が、刹那、太陽に輝く。
英二も、いいって思わない?
…こんなことしても、見る人もいないし。
つめたい手が、俺の手を、
さっき目を釘づけにさせた、汗ばんだ皮膚に当てる。
どうして、目をつぶるの?…震えなくていいのに。
瞼の裏には、無理矢理逸らした目を射た、真夏の午後2時の光のプリズム。
やわらかい唇もつめたい。
…そうじゃない。俺が、熱いんだ。
体温以上の気温にシンクロしてもっと上昇する熱。
背中を受け止めるアスファルトは40度位ありそうなのに、
平気でべったり転がってしまう。
感じるのは、腹の上に置かれたつめたい掌。
すべすべだけど、強く圧されると、やっぱりたこがあるのがわかる。
ぱたぱたと、音を立てて落ちる汗。
まっすぐに落ちてくる残酷な光の中で、不二は、白く縁取られた黒い影になる。
月の中に浮かぶ兎の影のように。
手塚の居ない東京。
真空な俺達の午後。
Fin.
不二塚、塚不二前提…?