061:飛行機雲


「何か、用?」

「…ごめん」


居たたまれない、という風に、

でも逃げずに、君は僕の横に立った。


全く、卑怯じゃないね、君って。

そういうところが大嫌いだ。

ごろりと向き直ると、君の背中の向こうの空に、

飛行機雲が、すうっと筋を引いている。


「立ち聞きするつもりなんか、無かったんだけど」

「別に」


どうだって、いい。


「…あの子、泣いてたよ」

「そう」


好きです、不二先輩。ごめん、僕、君を好きになれない。

もう何回、誰に言ったかも思い出せない。


「好きって言葉、嫌いだ」

「え?」

「僕の中じゃ、英二にしか結びつかないんだ。

皆簡単に言うけど、その度に僕はずたずたになる。

だって英二はもう僕を好きじゃないから。

他の男とも女ともキスもセックスもしたしクスリもやってみたけど、

いつも英二じゃなきゃ僕はダメだって確認するばっかりでさ」


何で、僕はこんなこと言ってるんだろう。

一番弱音なんか吐きたくない相手に。


恋人だったほんの短い間だって、僕は君に憧れてた。

英二は君を見ると笑う。

怒って見せてもそれはおふざけ。


僕には
くれない信頼。

一番優しい感情だけを注ぎ合って、

一緒の思い出は一点の痛みもない。


僕は君になりたかったのに、

不器用に、英二に恋することしかできなかったんだ、

大石。


Fin.



白大石黒不二。