083:雨垂れ



ブルーの傘の人影が、中等部テニスコートのフェンスの前にぽつんとたたずんでいた。


「…不二?」

「タカさん?どうしたの」

「ん、今日は親父が組合の旅行で、店休みだから、
ちょっと見に来ようと思ってたんだけど…早めに休みにしちゃったんだな」


予報になかった雨は、細くて全てをしっとりと濡らす膜のようだった。


「入りなよ、風邪引くよ」

「ありがとう」

河村は傘を受取り、不二と並んで歩き出した。

俯いて、さらりと落ちる前髪に隠れた不二の横顔は、

傘の色のせいか、酷く蒼ざめて見える。


「不二、寒い?」

「ううん、大丈夫」


見上げる笑顔は、記憶にあるよりも透明で、

河村は、何故か胸を衝かれた。


「タカさんは優しいね、ずっと変らない」

「え…あ、」

「僕さ。女の子に生まれて、タカさんみたいな優しい人と恋をして、幸せになりたかったな」

「…不二?」

「ごめん、変なこといって…え?」


河村は、不二の肘を引いて、もう空っぽの駐輪場の屋根の下に導いた。

ふわりと、河村の体温が不二を包んでいた。


「辛いときは、泣いちゃいなよ、不二、俺、胸位いつでも貸すから」


もう、堰き止められなかった。

それでも、河村の制服を濡らさないように、

河村の胸に押し当てた拳の上で、

不二は声を殺して長いこと、涙を流した。



Fin.

ちょっとありがちになってしまいましたが、
私のタカ不二ってこんな感じです。
永遠の友達。