087:コヨーテ
「…今日は上物が入ったで」
ビニール一杯のタブレットを振って見せると、奴の目が薄く開いた。
「今日、あんまり持ってないんだ。お金作ってくる」
通用口を開けると、下腹に響くような喧騒が流れ出す。
その腕を押えた。
「ええわ。ココで商売さしたる。2発分」
肯いて、滑らかに跪く襟髪を掴んで上向かせた。
「なあ、キスさせろや。濃厚な奴で一枚、まけたる」
「…要らない!」
「無しで居れるんか。ケミカルじゃ痛い目おうとる癖に」
じわじわと、小鳥の喉を扼する快感。
朝には殆ど残らずに綺麗な目も髪も損なわないハーバルエクスタシーは、
ここらでは俺の専売。
「…他のことなら、何でもするから」
ぽろりと、落ちる涙。
薄っぺらい容赦が、蓄積して、いつか発火点に届く。
そのとき、お前を壊すのは俺や。
「じゃあ、壁に手ェつけ」
それまで、綺麗で居れ。せやないとつまらんからな。
ゴミための路地裏に迷い込んだ、白い蝶を揺さぶりながら、
俺は自分の甘さを吐き捨てた。
Fin.