Domino Dancing

…今、ゴッていったぞ、おい。
三蔵、脳震盪起こしてんじゃねえか?

俺ンとこまで、埃の匂いが上がってくる。
三蔵はしこたま吸い込んだらしく、
烈しく咳き込んだ。
その弾みを逃さないよこの男。
銃、対角の壁まで蹴り飛ばしてるし。

やっぱ日頃の行いがいいってことか。
壁の方、向いてて助かった…
いや、ちょい前に俺が寝返り打ったんで、
八戒スイッチ入っちまった?
…思考がネガティブスパイラル入ってるし。
こういう時俺とか猿がどうこうって関係ないないない。


「ふざ…ゴフッ…けてん…じゃねェ…ゲホゴホッ!」
「誰がふざけてるんですか?」


…ミリッて。床か?床だよな?骨だとやべえぞ。
膝で膝の皿の上のしかかって、
肘で鎖骨押さえてるだろ。
今の三蔵にそれって…窒息しねえ?
意地でも八戒の腕押しのけようとしてるんだろうけど、
喉がヒューヒュー鳴ってんじゃん。


「水を持ってきて下さい、悟空」
八戒が三蔵を押し倒したとき、
小猿ちゃんは、隅の冷蔵庫を開けて顔突っ込んで、
涼もうとしたまま固まったらしい。
「水と言ってるんです」
怖え。ワントーン下がった。
パタンと冷蔵庫が閉まって、
部屋が暗くなった。

水のボトルを下げた手がぎくしゃくと、
俺のアタマの上を通って行った。
「蓋、開けて。口に持ってきなさい…僕の口です」
三蔵のか、八戒のかまごついたらしい。
ぱしゃんと、こぼれた水がはねる音。
含んだ水を、注ぎ込まれて、
あ、咳で食い縛れねえんだな…
今度は酷くむせ返ってるぞ三蔵。

「なあ、は…八戒、」
「もういいですよ、どいて」
小猿ちゃんはすごすご戻って、
俺の後に這い上がって来た。
肩にぎゅっとひっつかれると、
暑苦しいんだけどな。
でも押しのけられねえわ、さすがに。


漸く咳が聞こえなくなったら…
湿った音が伝わって来た。
多分、標本の蝶みたいに、三蔵は床に留めつけられて、
口の中をかき回されてるんだろう。
歯列をなぞり、厚めの唇の縁を辿り、上顎を擽り、
故意に音高く舌を吸い上げて、
容赦なく。

ジッパーが下がる音がする。
悟空の顎に力が入った。

思いっきり濡れた音を立てて離れた唇が、
黒い布越しに胸肌に這ってってるらしい。

「…アタマ、痛え」
「後で治します」
「何で、俺だ?何で床なんだよ」
「あなたが一番体温が低いからです。
それに、終わった後は冷たくて清潔なシーツに寝たいんです」

強く握り込まれたらしく、三蔵の呻きが漏れた。
抵抗を無くした腕が、ばたりと床に落ちる。


思い出せる限りの曲を頭でなぞってみる。

「咲かないで向日葵 この都会の隅に…」の続き、なんだっけか?

「時計を巻き戻して もう一度イカせてよ」…
こっから「ロマンチック」でなんか無限ループ入っちまうな。

「立ち止まる事も逃げ出す事もそれもまた勇気なら」
あちゃ、これアウトだ。現実にシンクロする。


…もう挿れてんの。
あ、汗で滑りがいいんだな。
三蔵体柔らけーし。肉薄いのに。関係ないか。


キチ○イってのは小出しにしねえとヤバイんだよな。
つうか…いつも(一番マトモなフリしてる)ストレス、
溜め込むなって言ってんだけどな。
呑んだくれるとか、ねーちゃん引っ掛けるとか、
猿や俺と一緒にどつき合うとか、もうちょい、
こうアブナくない発散の仕方ってさ…
お前だけがオトナだって思ってンの、お前一人だぜ。

諦め早い俺がオトナだとも別に思ってねえけど。
泣くなよ悟空。
お前まだ、マトモになる執行猶予あるんだからよ。

Fin.