45 年中無休


「誰あんた?」

悟浄がわざとに聞いた。

挨拶もなし。

いきなり椅子を引き寄せて比沙子の横へ座る。

その場に居た全員が一斉にそっちを見る。

「これは失礼。でも名乗るほどの者でもないしね。それにここには長居しないからどうぞご心配なく」

男はニヤニヤしながら比沙子に目配せをして

席を立つように指示した。

どこかびくついた様な比沙子は促されるままに席を立つ。

「蓮実ちゃん、私行かなくちゃ...」

絞るような声でやっと言っている。

「大丈夫?」

黙って頷くと男に引っ張られるようにこの場を去った。

蓮実には「ごめん」と小さく聞こえた気がした。


重苦しい空気が漂う。

見たくないものを見てしまった。

少なくとも蓮実の顔にはそう書いてある。

「訳あり...ですか?」八戒が蓮実の方を見て聞いてきた。

「訳ありだかなんだか知らないけど...野郎、結婚離婚を繰り返す不愉快な男には違いないわね。

クワトロなんて乗ってるのも気に入らないし、ストライプがあれだけ嫌味な男もいないと思わない?」

「いーじゃん。クワトロ、俺だって乗りてぇ。ラリー仕様で」
「車にだって選ぶ権利があるってもんよ。そんなことよりほんと、あの子って男の趣味悪いんだから。

あの作ったような笑顔は生理的に無理!ねっ三蔵さん」

「なんで俺に振る?」

「それじゃぁ蓮実さんの趣味ってもしかして悟浄さん?」

八戒が悪びれずに聞くので一瞬蓮実が動揺した。
 
「八戒さん、なんでそこで悟浄なの?
この年中無休能天気男があたしの趣味?」

「年中無休は失礼だろ!盆と正月くらい休ませろっ」

そういってから悟浄は慌てて三蔵に目をやると関係なさそうにビールを流し込んでいる。

いつか蓮実の腰に回した手の感触を思い出し冷や汗が出た。


「あたしが好きなのはこんなヤツじゃなくって...」

「あーこんなヤツに惚れるヤツの顔がみてぇな」

「三蔵、それは俺に失礼だろ。」

「まぁ、結局皆さん仲いいんですね。冷戦してるのは僕と兄だけ...

さてお腹も膨れたし僕は宿探ししに行きます。」

「探すったってあんた、地理解るのかい?」

「いいえ」

「家、来るか?」

突然三蔵が口を開いた。

八戒は戸惑いを隠せない。

蓮実と悟浄は顔を見合わせて信じられないと言った表情を浮かべている。

「いや、家には来客用寝具があるから...それだけの理由だ」



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