012:ガードレール


「素直じゃん。今度は笑わねーの?」と言いながら悟浄が笑っている。

「今のはねーよな、俺言ってしまってからその台詞はどーよ?って。」

「嗚呼まるで、女に言うみたいだった。(笑)」




悟浄に言われるまま素直に答えた自分は、一体どうしちまったんだ......



月の光の所為にしておけばいい。




煙草を取り出し火を着けようとすると、

先に吸っていた悟浄が自分の煙草の火を差し出した。


「超接近(笑)今度被写体にしてもいい?」

「...断る。」

「マジかよ〜。いいぜ、別に盗撮っていうのもありだから(笑)」

「お前が言うと冗談に聞こえねぇ。」




酒瓶はそろそろ底をついて来た。





「4時回ったぜ。どーすんの?」



「そろそろ帰る.....」

三蔵が立ち上がろうとした時、

「今度は三ちゃんちに招待してよ。」

イタズラっぽく悟浄が言った。

「考えとく。」

「仕事中寝るなよ!」

「お前こそな。」


振り返らずに手を軽く上げて三蔵は出て行った。

一人部屋に残された悟浄は、心臓の辺りがむず痒かった。

「あ〜あ、なんで帰るのさっ。」

そのまま悟浄はベッドに突っ伏した。

枕から微かに三蔵のシャンプーの香り......

「つまんねぇの...」








「俺、三蔵のこと.........」







考えていてもいなくても、恐らく同じ朝が来る。


同じ時刻に、同じ道を辿って、いつもの仕事に出向く。


ただ違うのは、妙な切なさが時折自分を困らせるくらいだ。






「どうしたの?何だかボケっとしてるけど。」

「イヤ、何でもないって。ちょっと考え事。」

「女の子のことでしょ?最近良くうわの空になってんじゃん。」

「すぐそう決めつけんだからなぁ。」

職場でつい三蔵の事を考えていて、同僚にからかわれた。

「恋してるって顔してるよ。心ここにあらず〜。」

恋って.......恋ねぇ...





その日悟浄は仕事から帰ると、食事もそこそこに

家を出て、駐車場へと向かった。

エンジンをかけると、行く先も決めずに走り出した。

モヤモヤする気持ちを吹っ切るように。





突き破ってガードレールの向こうに落ちてしまうか


それとも理性で止まるべきか


そんなこと思いながらアクセルを吹かした。




大事にしたかった。

壊したくなかった。

だから慎重にならざるを得ないのだ。

三蔵は自分に立ち入られるのを恐らく警戒しているのだろう。

そこに踏み込むのは勇気がいる。




俺といるよりもYシャツを変えシャワーを浴びるほうが大切?






あれから1週間またなんの音沙汰も無く、小春屋でもすれ違いだった。

一人には慣れていたが、本当は一人は嫌いだ。

人に優しくするのは、優しくされたいからだ。


アクセルに自然と力が入る。

暫くすると街外れの高台に着いた。






高台から見る街の灯りは様々な色合いが絡み合っていて

あのなかに三蔵もいるんだなぁと思うと逢いたい気持ちで

いっぱいになる。







一瞬躊躇ったあと、悟浄の手が携帯に延びた。


...RRR....RRR...

「お客様のおかけになった電話は現在.......」



「ねぇ今何してる?」





独り言が空しく辺りに響いていた。





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