024 ガムテープ
「2番目か...。」
三蔵は思わず呟きハッとしたが、
回りには全然聞こえていないようで安心した。
捲簾が言っていたことはこれだったのかと、
思い出すとどうにも歯痒くて三蔵は苦笑いをしてしまった。
「何?主任でも思い出し笑いすんの?」
「いや何でも無い。それと社外で主任はよせ。」
三蔵は悟空を促すように、ぼそっと低い声で呟いた。
目の前では済まなそうに肩をすくめ赤くなる天蓬と、
素早くひっくり返した皿を片付け始める捲簾が対照的な動きをしていた。
どんなに鈍い三蔵でもこの状況を見ていれば、
紹介されたこの研究員が捲簾のNo.1の位置に居るのが解かる。
「すいません、お騒がせして。僕どうも注意散漫で...
せっかくのお料理が台無しですね。ほんとにごめんなさい。」
「気にしないで。こいつなんか普段もっとヤラかすんで。」
そういって三蔵は悟空の頭を軽く小突いた。
「結構前なんだけど、キーボードにお茶こぼしたの今だ根に持たれてる...。」
悟空がこそっと捲簾達の方を向いて呟くと
「三蔵こう見えて、意外と執着心強いからなァ(笑)」
納得したような捲簾が笑ってそう答えた。
その横で同じように微笑む天蓬。
捲簾は職業柄、恋愛話には事欠かない男ではあった。
ある時は上司であったり、ある時は客の人妻であったり。
しかしこんな形で新しい恋人?を紹介されるとは思ってもみなかった。
無意識のうちに天蓬の顔をじろじろと見ていたのかもしれない。
時折目が合い、慌てて逸らした。
「何話したらいいか、ちょっと初対面だと緊張しちゃいますね。」
「いきなり込み入った仕事の話されても退くぜ。」
「その位しか話ないんですけど、やっぱり退きますか(笑)でも折角だから手短に説明します。
難しく説明すると切りがないんですが。
簡単に言っちゃえば、花の色を変えたり、病害虫に強くしたり、
株付きを良くしたりという具合に品種改良するのが仕事なんです。
今僕が手がけているのが開花時は赤で、1週間ほどたつと花色がグリーンに変わるって品種なんですよ、
商品化まであと半歩。」
「へぇ凄いなぁ。カメレオンみたい(笑)いいなぁそれ。」
悟空が話に食い付いて来たので天蓬は嬉しそうに微笑んだ。
「で、花の色変えるのに夢中で自分のことはどうでもいいってんだから。
ゴミ屋敷になりそうで恐ろしくて、ほっとけない!」
「でもゴミを捨てなくったって、服を着替えなくったって死にはしませんが
研究は一瞬目を離すと、取り返しがつかなくなる事が多々ありますからね。」
「すげぇプロフェッショナルだ。」
「単なる変人なんです(笑)でも三蔵さん達のお仕事も
期日とか時間に追われるでしょう?貫徹なんかも?」
「最近はあまり無理しないようにしていますが、前は良くやってました。」
「でもこの前倒れて、俺夜中に呼び出しくらって。」
暫く三蔵の過労話に花が咲き、天蓬も打ち解けて来た様子だった。
ムードメーカーの悟空と捲簾のお陰で緊張はなかったものの、
あまり会話に参加しない自分が、天蓬に失礼な態度に映ったのではないかと
三蔵は少々気になっていた。
けれども大方捲簾が上手にフォローしておいてくれるだろう。
昔からそんな奴だった。
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「じゃまた機会があればっつーことで。」
「ああ。」
「俺もまた誘って(笑)」
程なく雑踏の中に捲廉と天蓬は消えていった。
「悟空、飲みなおすか?」
「任せるよ、三蔵。ところでさ...」
「....」
「変だと思った?」
「何がだ?」
「ってその、あの二人。」
少し間を置いてから三蔵は慎重に答えた。
「別に。お前は変だと思ったのか?」
「微妙。でも、ありかな。天蓬さんって良い人みたいだし。」
「そうだな。」
「三蔵...三蔵は、今、好きな人いないの?」
「急に何言うんだ。」
「いきなりでかい声出すなよもぉ。俺、会社の受け付けの子によく聞かれるんだって。
付き合っている人いるの?とか。もてるんでしょ?とか、三蔵に怒られそうで今迄黙ってたけど。」
「いねぇーよ。お前こそ人に探り入れてる暇あったら彼女でも探したらどうだ?
ビルメンテのおばちゃんとかにやたら受けいいぞ(笑)アイドル並だ。」
「ちぇっ冗談でかわすなよ。俺が女だったらなぁ、三蔵の彼女になるのにな。」
「おっ俺にだって選ぶ権利はある。」
「真にうけんなよ、冗談に決まってんだろ!堅物がぁ。
つーか三蔵って本気で人好きになったことないだろ?」
「それ以上言うと口にガムテープ貼るぞ!」
悟空に言われた言葉を噛み締める。
人を好きになったことなどない。
好きが永遠に続けばいいが、いつか訪れるだろう訣別が怖いのだ。
暖かく包み、惜しみない愛を与えてくれたあの人のように。
「三蔵、携帯ブーブーいってる。」
そう言われて初めてポケットの振動に気付いた三蔵であった。
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