018 ハーモニカ


「今はもう家だ。」

「マジびっくりした。出ないと思ったから。」

「出ない電話にかけるのかお前は。」

明らかに笑っているような様子が感じられる。

悟浄は慌てて弁解するようにその言葉を遮った。

「いっいやっ、そうじゃねーけど。まぁその様子じゃ大丈夫だな。」

「ああ大丈夫だ。」

「つー訳で単なるさぐりの電話だから気にしないで。お大事に、じゃあ。」

「まてっ昨日は助かった。今度小春屋で奢る。」

「まじぃ?超楽しみにしてるから虚弱体質さん(笑)」

「言うな!」

「じゃ俺休憩中だから、必ず連絡入れろよ。」


思ったより元気そうでほっとした。

この分だと近々三蔵から電話は来るのだろう。

まぁ来なけりゃかければいい、余計な心配してもしょうがない。

どう足掻いたって、なるようにしかならないだろう。

その日、悟浄の職場はいたって暇だった。

予約も午前中ではけて、後は雑務整理を同僚とのんびりと行っていた。


「なんか面白い事ない?」

「有り過ぎて言えねぇ。」

「ちょっとあたしにも分けてよ。」

「やらねぇよ。もったいない。」

「ところでさ、恋煩いどうなった?(笑)」

「あ〜進展なしだね。」

「押して見た?」

「ぶっ!」

「何噴出してんの。思いだし笑いでしょ。ヤーラシイ。」

「違うって、押すも押さねぇもそれ以前の問題だからなぁ。」



「ふーん、らしくないじゃん。ところでお願いあるんだけど、
 また兄貴の店連れてってよ。」

「いーぜ。俺も暫く行ってなかったな。仕事終わったら行くか?」

「行く!」

職場の同僚の蓮実紗依は同期入社で悟浄とはライバルであり良き相談相手だ。

女だけどサバサバしていて気兼ねしない。

かと言ってガサツな訳でも男っぽい訳でも無く

黙っていれば結構良い女だし、実際二人で歩いていると振り返る男も多かった。


悟浄の兄は隣町でバイクのカスタムショップを営んでおり、

傍らで夜は小さなBarをやっていた。

悟浄のバイクも勿論兄貴譲りの中古だが結構気に入って大事にしている。


「悟浄ちょっと家寄って、着替えてもいい?」

「蓮実の見てもつまんねぇからヤダ。」

言った瞬間、後ろから蓮実の蹴りが入った。

「マジ蹴りすんなよっ。」

「へへ〜ん。早くいこ。」



蓮実の家は丁度コンビニの裏あたりで兄の店に行く中間地点でもあった。


冗談を言いながらのんびり歩いて蓮実のアパートへ向かった。

〜三蔵の家も多分この辺だよなぁ〜

考えながら歩いていると程なく着いた。



「ちょっと待ってて、すぐ着替えるから。」

「はいはい。」

座って煙草に火を着けた。

シンプル過ぎる部屋はどこかユニセックスで蓮実と被っていた。

「お待たせ。」

いつもまとめている髪を下ろしたのも新鮮だったが、

それよりチュニック丈のブラウスの開いた胸元に目がいった。

「それ本物?」

「そう、ちゃんと鳴るの。可愛いでしょ、LittleLadyって言うんだ。」

「見せて...4穴なんだ。」

「お守りにしてるの。これC調だからさ、嫌なこと除けにね(笑)」

蓮実がお守りって言うのもらしくないが、

人には言えない弱い部分もあるのが普通だろう。

ミニチュアのハーモニカペンダントのお守り......

「蓮実、嫌なことは吐けよ。」

「何を唐突に(笑)つーか、悟浄もね。」


嫌なこと...最近気になることはあっても嫌なことはない。

気になることが今後どうなるかは悟浄にも解らない。


蓮実のアパートを出てコンビニの通りに向かった。

「ちょっと寄っていい?煙草切らしちゃった。」

「俺のあるぞ。」

「ハイライトはなぁ。いいから待ってて。」

蓮実が走ってコンビニに向かう後をゆっくり着いて行った。

店に段々近付くに連れ、見覚えのある姿が飛び込んで来た。

「三蔵...」

「お前毎日ここ来てんのか?」

「三蔵、お前もだろうーが。」

話し出すと間もなく


「ごめん悟浄。待った?」

店から出て来た蓮実が、悟浄の肩を勢い良く叩いた。


三蔵はびっくりした顔で蓮実を見ていた。



019 numbering


LittleLadyと言うのは老舗Honnerのミニチュアで
初めて宇宙旅行へ行ったハーモニカなのだそうです。(by伊豆様)





017

Hybrid Theory Top