008:パチンコ



「これってタイミングいいんだかワリィんだか(笑)」

「それ以上笑ったらテメェの奢りだからなっ!」


照れ隠しもあってついぶっきらぼうな言葉を投げかける。

しかし内心、電話の悟浄の声が自然でほっとしていたのだった。


ここ何日か電話をする口実を考えていたのだが、浮かばなかった。

用事もないのにかけて、世間話をするほど自分が器用じゃないことは

三蔵自身が一番良く知っていた。


「つーか、今日ついてんじゃん俺。ねぇおばちゃん最後の美味いヤツお願い!」

「はいよ。ちょっと待ってね。」

「俺、ここ来んの超久しぶりだぜ。」

「俺もだ。」

「マジ?じゃこれってかなりの確立の偶然ってヤツ?」

「まぁそんなとこだな。」

「ふーん。やっぱ俺ついてるじゃん。」


そう言って悟浄は、嬉しそうに笑いながら三蔵の顔を覗きこんだ。


「なーんで今まで電話して来なかったのよ?」

「別に...たいして用事もなかったし。仕事も立て込んでた。」

「俺、お前から一生かかって来ないかもっとか思ってたからさ、

 さっきメチャ嬉しかったぜ。」

「あほかっ、大袈裟な。」


素直な受け答えが出来ない。

いつからだろう。

人の心の裏の裏まで読もうとする癖。

悟浄が駆け引きするようなヤツじゃないことは目を見りゃ解る。

でも、その言葉を疑っている自分がいるのだ。


「ごちそうさまっ!美味かったです。」


本当に美味そうに食うヤツだ...

この言葉に嘘はない。

隣で見ていても気持ちがいいくらいだ。


「何マジメくさった顔して?」

「いや、お前って本当に美味そうに食うなと...」

「へへっ。見てて気持ちいいだろ?」

「ああ、そうだな。」

「まだ8時半かぁ...三蔵ってさ、これから時間ある?」

「時間か?...特に用事はないが。」

「じゃ決まり、付き合って。あっおばちゃん、俺と三蔵のおあいそお願い。」


急いで勘定を済ませると、小春屋を後にした。


「ねぇ俺んち寄ってかない?昨日上司からうまい酒貰ったんだ、

 一人で飲むのももったいないしよぉ、ちょっと一緒に飲もうぜ。」


返事を聞くまでもなく、悟浄は肩に手を回し自分の家の方向に三蔵を導いた。


「お前、随分強引だな。」

「お前のことだから職場と小春屋と家ってルートで大体決まってんだろ。

たまにゃ釘をいじって、道筋変えるのもいい気分転換になるっつーの。」

「いい方向に落ちればいいが...すったらどうする?」

「勝つまで突っ込む!(笑)」

「一生言ってろ。」

「真面目に答えんなよっ!三蔵そこはボケだろっ!」


時折、夜風が紅髪をいたずらに三蔵に絡ませた。

シアームスクの微かな香りが心地よかった。


「変なヤローだぜ、まったく。」


気持ちと正反対の言葉を投げかけたが、気付いているのか

答えず黙って微笑む悟浄が隣にいた。


「俺まで変になる.....」

「いーんでないの。」






009 かみなり 








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