026 The world



運転手の言葉が頭の中でグルグルと回っている。
〜相手に逃げ場が無くなるから〜

目の前で起こっている出来事が自分とは無関係なのに
呼ばれたからと言って何故ここに居続けるのだろうか.......


「あのお二人さんは御兄弟でしょう?
 喧嘩するほど仲が良いっていいますもんね。
 自分には喧嘩する兄弟もいませんから良く解かりませんが。」

メントールでスースーする唾液を飲み込みながらゆっくりと三蔵も言葉を探した。
が出て来たのは、運転手と同じ言葉だった。
一瞬躊躇ったが、間が開きすぎるのも嫌だったので口にした。

「俺にも解からない......」

運転手は軽く頷き微笑んだ。

「このまま待っているんですか?」

三蔵は何も考えていなかった。
待てと言われれば待つだろうし
帰れと言われれば帰る。

決定権は自分にはない気がしたのは確かであった。

悟浄はどうしてあそこまで熱くなれるのだろう。
普通は構わないでほっとくだろう。
答えは出なかった。

車の窓から外を見上げると高く暗い空の中に浮かんだ半月が、

流れの速い雲に出たり隠れたりを繰り返す。

その静寂を突き破るかのように、再度ガラガラと物音が聞こえたかと思うと
車に向かって唇を噛み締めた子供のような表情の悟浄が歩いて来た。

「終わったようですね。」

運転手がエンジンをかけ後ろのドアを開いた。

「今度はどちらに?」

何も言わない悟浄のかわりに三蔵は自宅近くのコンビニの住所を告げた。

ライトを点けゆっくりと車が動き出す。

悟浄はちらっと後ろを振り返ったが、すでに茲燕の姿はそこには無かった。

「すんげぇ虚しい...。」

悔しそうにポツリと呟く悟浄の声が、まるで駄々っ子のようで

三蔵は思わず頭を軽く小突いてしまった。

「優しくねーのっ、三蔵。」

「世界の終わりみてぇな顔すんな。」

「そんな顔してるか俺?」

「嗚呼、してる。」

バックミラーに映った運転手の顔も三蔵と同じ事を考えていたらしく
無言で頷いていた。

それっきり車内は静まり、悟浄は窓の外を見ながらシャツの袖を唇に当てていた。
解かり易い奴だと三蔵は思った。

運転手は土地勘があるらしく余計な説明も無しに最短で目的地まで二人を運んだ。

「また機会があれば。」

そう言って走り去った。

気が付けば悟浄も一緒に降りていた。

「何でお前もここで降りるんだ。」

三蔵は意地悪だとは思ったがワザと聞いてみた。

「いや、腹減ったし...その。」

「ふん、じゃ店寄ってけ。俺は帰る。」

「つーか、待ってよ三蔵。」

「待ったら俺に良い事でもあるか?」

「とっ取り合えずビールくらい奢るから。」

そう言うと三蔵を入り口に無理矢理押し込んだ。

悟浄は奥のドリンクスペースに直行すると
適当にアルコールを籠に入れながら、申し訳なさそうに呟いた。


「今日はごめん。」

真剣な目で謝る悟浄を突き放す理由は探しても見つからない。
籠に二人分のスープやパンを放り込むと三蔵は言った。

「しょーがねぇ奴。」



027  電光掲示板 



コンビニの有線はECのChange The Worldが丁度流れていたんですね〜(笑)グッタイミン〜(伊豆様)


025 のどあめ(後)

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