2 器奉行着任:
「いいこと?三人でその真中の子を抱いて、心臓めがけて引き金を引くの。
その子の心臓を貫いた弾丸はそれぞれの心の臓をも撃ち抜いていく…
フ○イデーの見出しは『青きトライアングル自決 青春の蹉跌』
殺人人形としての使命に耐えかねた若き友の苦悩に共鳴し
集団自決を決行した若者…」
の瞳は年二回東京湾の近くで大量発生するタイプの怪しい光を帯びた。
「ああっ 美しいわ!美学よ!葉隠よ!」
鼻息荒く、胸ポケットからデジカメを取り出して構える。
「この間ヨド○シで中○ゴール記念5,000円引きで買った2億画素よ!
さあ、こころおきなく自決して美しき器を全うしなさい!」
「あのー、僕ら銃持ってないんですけど」
「一応天界軍人だから殺生禁じられてるしー」
「あらそうだったっけ。じゃ、多少変更しましょ」
は辺りを見回した。
てんでに槍や剣をぶら下げて呆然と立っている軍人がわらわらといる。
「得物を持つものは一歩前進!総員、構え!」
「っ!」
「何よ、カメラマンのテンション下げる気?」
「奴らを殺させる気か?そんなことは許されん!」
「ああら、敖ちゃん、お言葉ですけど、アンタは西方軍統括の将軍。
アタシは東西軍の総帥。階級はアタシのが上。
この部屋で一番偉いのはア・タ・シ」
「、ワシがおるが…」
「アンタ、甥の分際でアタシに指図すんの?
それにアンタが殺せって言ったから皆で寄ってたかったんでしょうに」
「い、いやワシは言っとらん!天界人が殺生などと…仮にも玉座の間で」
「まあいいわ誰が言ったんだって。もうキャプションも構図も決まってるんだし。
サクサク進めるわよ!
誰が下手人か判らない集団に屠られる美貌の反逆者達って方が
悲劇性も増して映画化ドラマ化なんかもアリだったりするし!
脚本はジェームズ○木あたりだわね!今日び不可欠のホ○要素もバッチリ突っ込ませるわよ!」
さくら子は空いた手を振り上げて叫んだ。
「総員、攻撃せよ!」
「マジっすか?!」×数百名の叫びが、玉座の間を揺るがした。
「おい、ちょいと待てよ。
天界に写真週刊誌、ねえぞ。
地上でもフライ○―は廃刊したろうが」
いつのまにか、現れた観音菩薩が、の肩を叩いた。
「あっそうだった。じゃあ、週刊文○とポ○トと東ス○でまけとくわ、この際」
「週刊誌もスポーツ新聞もねえんだな、これが」
「あっちゃあ…」
はデジカメを下ろして腕を組んだ。
「じゃあ、そっち創刊すんのが先だわねえ。でも1週間はかかるし…
このネタが鮮度がなくなっちゃう。
しょうがない、このところガタガタしてるからまたイイネタも持ち上がるわね。
駄目なら私の水着写真とかヤラセって手もあるし。
今日は見送りますか。はい、総員撤収!」
はデジカメの電源を切って溜息をついた。
「私の乾いた心を充たす美しき器は何処?…何、ボヤボヤしてんの!
明日はアタシの着任式なんだから、さっさと花輪やら薬玉やら用意してきなさい!」
軍人達は飛び上がり、先を争って玉座の間から逃げ出して行った。
(アホだ…ほんとにこのねーちゃん、アホだ…)
脱力しきったなたくの手から、青龍刀が落ちた。
さくら子は青龍刀を蹴り、なたくを胸に抱きしめた。
「ま、アンタ、イイ男になりそうだし、あっさり死んだら勿体ないわね」
(俺は…俺は絶対あんな汚ねえ大人…や、柔らけー…なんか、頭ぼんやりしてくる…)
残った一座の注目の中で、一際熱い視線にが振り向くと、
悟空が羨ましげに唇を尖らせて見ていた。
「そこの子もいらっしゃい」
ふらふらと歩み寄る悟空も、むぎゅぅと抱きしめられた。
「ま、ふわふわの髪ね。かわいいじゃないの」
「イイ匂いだー…」
「コラ!悟空!離れろっ!」
金髪をなびかせた青年が人込みをかきわけて現れると、
美貌に似合わない乱暴な口調で怒鳴りながら、
悟空の耳を引っ張り、
から引き離した。
「いてーよ、金蝉!何でそんな怒るんだよぉ」
はにんまりと、僅かに自分より背が高い青年を見上げた。
「あなたが金蝉童子ね?」
* * *
翌日。
の着任式を控えた昼過ぎ、何故か敖潤の執務室に天蓬、捲簾、金蝉、悟空が集まっていた。
「あの姉ちゃん、ほんとに天帝の叔母さんなわけ?」
「本当だ。あいつの母君は西王母を生んでから夫の伏義と別れて、、
俺の兄貴の南海竜王のところに後妻に入ってあいつが生まれたんだ。
といってもあいつが生まれたときはもう天帝は即位してたんだが…」
「寿命が長いと色々ややこしいですよね僕ら天界人て。
そういえば僕の母親も西王母様のご祐筆の妹のお嫁に行った先の姑の甥の娘ですけど」
「それ全然他人じゃねえか」
「さて、どうなることやら、これから」
「…ああ」
捲簾も火を点けていなかった煙草を窓の外に投げ、向き直った。
「昨日、僕達、消されてる筈でしたからね。
だけど、西方軍を李塔天の指揮下に置くというのは、建前上も出来ないし、
あなたの配下達始め将校の猛反発を買うのは避けられません。
だから、お飾りのあの女(ひと)を据えて、実権は李塔天が握ろうっていう段取りだったのに…」
「俺らは生き残ってるし、お飾りの筈の皇女さんはあの通りのぶっ飛び姉ちゃんときた。
…これから観物だな。俺としちゃあ、あんなイイ女毎日拝めるだけで正月気分だけど」
「なかなか面白いことになりそうですね」
「お前ら、もう少し危機感持てよ。李塔天が抹殺諦めるとでも思ってんのか?」
金蝉は呆れて口を挟んだ。
「目先の以外心配する余裕なんぞない」
足元で落書きして遊んでいる悟空に反故紙を与えながら、敖潤は溜息をついた。
「で、どういうヒトなわけ、あの姉ちゃんて」
「俺に聞くな。生まれてこのかた理解できたためしがない」
「話は聴かせてもらったわbyヤ○ちゃん。それはアナタが頭堅すぎるからよ敖ちゃん」
「コラ!入るときはノック位しろ!」
入口にはが立っていた。
昨日の軍服に、今日は華やかに花鳥を縫い取ったマントを着けている。
「開けっ放しで話してる方が悪い」
はドアを閉めてつかつか入ってくると、机の端に腰をかけて悟空に微笑みかけた。
「ボク、名前聞くの忘れてたわ。何ていうの?」
「俺、悟空。金蝉がつけてくれたんだ」
「そう、いい名前ね。アタシは」
「僕は天蓬元帥です。よろしく。…貴女、この渦中に巻き込まれて平気なんですか?
いくら、手出しが出来ない立場の方とはいえ、どんなとばっちりを食うかわかりませんよ?」
「ふうん、そんなにあのヒゲオヤヂ、とち狂ってんの?たかが天界軍の全権位で」
「そりゃ、生まれつき権力持ってるあんたらには判んねえだろうけど?
出所もわかんねえあのオヤヂがのし上がれるとしたら、軍しかねえだろ。
天界にはヤクザもねえし。」
「あのオヤヂ…何が許せないって顔と髪型よね!」
「はあ?」
「あの子、なたく、だっけ?あの子が俺は腕があるんだから天界軍任せろ!
って成り上がろうとするっていうんなら、まだ、許せるのよ。
若いし顔が可愛いし。腕も立つんでしょ実際。
でもあんなオイリーな顔と脂臭いドレッドで
その癖毛もない胸はだけてるよーなオヤヂが幅きかせられちゃ、
天界軍の美学も何もあったもんじゃないわよ全く」
「…だから、総帥の話に乗ったんですか?」
「そう。それに、軍責任者なら、討伐に下界しょっちゅう行けるんでしょ?」
「はあ、まあ、事が起きれば…」
「それがポイント高くって。今牛肉関係の商売が冷え込んでて、チャンスなのよね」
「…何のですか?」
「牛丼の吉○屋天界出店誘致。アタシ、一日一食は牛丼食べたいんだもん」
まだまだ続く(ついてくる人がいなくても)