3 牛丼魂:

白薔薇信金預金課課長 白鳥源蔵(43)は
今日も、いつもの朝食をしたためていた。

「肉・ごはん・肉・ごはん・タマネギ。肉・ごはん・肉・ごはん・タマネギ…」

この店には牛以外の肉は存在しない。

朝から晩まで、メニューは牛丼・牛皿・ごはん。(オプション・卵と紅生姜)

鍋で煮えるものはひたすら、牛とタマネギのみ。

味噌汁すらないここに、定食というものもない。

オヤヂのポリシーとつゆの味に惚れた客に支えられて昼夜の席はフル回転だが、

朝からという客はさすがに、少なかった。

「大盛り。つゆだくに卵」

突然頭上に降った、若い女の声。

驚いて顔を上げた源蔵の目に映ったのは…

イモジャーでも見誤りようのないグラマーな肢体に何故かハイヒール。

輝くロングヘアを靡かせ、ブ○ース・リー・タイプレイバンに

眼は隠れていても美貌と判るイイ女。

朱唇に挟んだ割箸を割る音が景気よく静かな店内に響く。

(こんなイイ女見て、朝からついてるわ、俺…)

源蔵の視線にも一顧だに与えず、美女は丼を抱えた。

(はあァッ!?

肉・肉・肉・肉・ごはん!!

肉・肉・肉・肉・ごはん!!

なんだ、その食い方は!
や、やめろォ!それじゃあ肉がもたなくなるぞおぉぉ!)

自分の牛丼を忘れ、カウンターの向う端に乗り出さんばかりに、
腕を伸ばして源蔵は念じた。

しかし祈りは虚しく、ふと美女が箸を止めたときには、

丼の中には一切れの肉と、大量のタマネギがごはんと共に横たわっているのみ。

(ほーら見ろ、あんな快楽主義的な食い方をするから、

肉のないごはんだけが大量に残っちゃって…)

美女は、卵を掴んでカウンターにぶつけ、

丼のはるか上から、とろーりと割り入れた。

「豪華肉入り卵ごはん。豪華肉入り卵ごはん。豪華肉入り卵ごはん…」

レイバンの下で、くわっと眼が開く。

ガガガガガガッ!

一気に卵ごはんをかき込んで、輝くばかりに空の丼を置くと、

「デリーシャス!ごちそっさまあ!」

「…豪華肉入り卵ごはん?」

「只者じゃねぇな…」

源蔵は驚いて振向いた。

「へいお待ち」「まいど」「ありぁと(ご)ざいます」以外のオヤヂの声は、

10数年通い詰めていながら初めて聞いたものだ。

「ムチャクチャだが、理にかなった食べ方だ。

お前さんが肉とごはんの割合を考えながら食べているのに対して

このお方は、『豪華肉たっぷり牛丼』と『豪華肉入り卵ごはん』に分け、

その二つを心から贅沢に楽しんだってわけだ」

「な、なんて女だ…!一体なんでそんな若いのに…」

「それは私の器が果てしなく大きいからよ」

「う…器?」

「私の目を見なさい」

「は、ハイ!」

(…グラサンに俺が映ってるだけ!見えねー!な…なんか、深い!)

「この世のありとあらゆるものは、器で語れるの。

(中略・
気になる方は第2回をご参照下さい)…人は美しく輝くのよ!」

「はあ…それが何か牛丼と関係が…」

「気に入ったわ、オヤヂ。このツユ。この品書き。このネギの炒め具合。

フランチャイズを申し込ませて貰うわよ!」

「お嬢さん、あんたが牛丼屋やろうってのかい?

俺は暖簾分けはしねえ。俺の味を盗みてえ奴はうちで修行して、

好きに店を出させてるんだ。

だが同じ味が出せる奴はいねえ。

どいつも牛一匹を使い切る度胸がねえからな」

「なるほど、店の名の『牛一匹』は伊達じゃないってわけね。

筋も骨も内臓も脳も使い切ったダシに

あらゆる部位の肉を絶妙に煮込み分けた具…

そしてそれらをタマネギが結び合わせるハーモニー。

ますます惚れたわ。用意して見せようじゃないの。牛一頭」

「ほう、そんであんた、修行する気かい?」

「残念だけど、私は忙しいの。私の手のものを寄越すから、

仕込んで頂戴。その間に、私はその牛を調達しに行くから。

向う100年分位は賄える牛をね」

「ひゃ、百年?!」

「ご馳走様。また来るわ」

肩越しに指で弾いた500円玉がオヤヂのポケットに納まり、

原チャリの音が遠ざかっていった。

「いやー、器の大きな女(ひと)でしたねえ」

「そうか?」

と、プルプルと原チャリの音がまた、戻ってくる。

「お釣り、50円、忘れてた!」

(うーん、大きいんだか小さいんだか)


…これが、天界軍軍食堂に『牛一匹』支店が出店し、

が牛魔王を討伐し、褒賞にその体全部を申し入れた経緯の発端であった。


「金蝉〜! 姉ちゃんが牛丼食いにいこうって!」

「牛丼て、何だ?」

「ったく箱入りねえ、金蝉って。そこが可愛いけどv」

「ですね」

「てめえらふざけてんじゃねー!」


次は多分もうちっとキャラが絡みます。


今回は元ネタマンガを写しただけです(笑)すいません。
作者は外で丼ものを食べるのは品が無いと親に止められ、
大学に入って初めてその禁を破ったので(学食だったけど)、
未だに丼ものには禁断のスリルを感じます。
もう大人になって大分経つので、牛丼屋にも入ってみたいです。
でもここに書いたような牛丼てまずそうだよ。美味○んぼってむずかぴー。