4 夫婦丼
「天ちゃん、今何時?」
「えーと…21時18分です」
膠着状態は、もう2時間に及んでいた。
とある郊外の住宅街の裏山で、
悪戯に祠の結界を破った子供たちが妖怪に魂を奪われるという事件が起き、
なぜか天界にその報がもたらされて、軍の出動となったのだ。
妖怪は抜け殻となった子供たちを使って次々に近辺の妖怪の封印を解かせ、
西方軍が到着した時分ではかなりの大群となっていた。
捲簾の奇襲で子供たちの魂は開放されたものの、
正気が戻った子供たちを人質に立て籠もられてしまったのだ。
「もう待てないわ。私を交換で人質に出しなさい」
「え?…なるほど、その手がありましたね」
天蓬は眼鏡を押し上げ、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、
のそのそ陣地を出ていった。
「ちょ…っ!」
担架から起きかけた捲簾の折れた左脚をのブーツの先が容赦なく蹴る。
「ぐあっ!」
「いいからあんたは寝てなさい」
「話、まとまりましたよー」
「じゃ、片付けてくるわ」
はからりと剣を捨て、すたすたと祠に入っていく。
すぐに子供たちがわらわらと走り出て来た。
「姫将軍が!」
「自ら犠牲となられるとは!」
抑えたざわめきと共に、軍はじりじりと前進を始めた。
そのとき。
絹を裂くような悲鳴が、夜気をつんざいた。
* * * * * * *
討伐を引き受ける軍はいないか、と廻ってきた資料を見せられると、
捲簾の口から煙草が落ちた。
「これってどっちかってーと妖怪ポストの縄張りじゃねーの?」
「あはは、○太郎ですか、誰がどの役まわりかなあ」
「あんたが鬼○郎よ」
居眠りしていたと見えたが口を挟む。
「理由?500年位経つとわかるけど…片目とか髪型とか。」
捲ちゃんは○りかべかしらね。あんたよく無駄に人かばって撃たれたり突かれたりしてるし」
「へいへい、どうせ無駄ですよ…ってこの男前捕まえてぬ○かべってどうよ!」
「敖ちゃんはあれ、一○もめん。飛べるし白いし」
「…あいつ、飛べんの?!」
「あ、それも500年経つと…まぁいいから」
は資料を引き寄せて目を走らせた。
「青春台!この件は私が貰ったわ!今回は西方軍だけで事足りるでしょ。
すぐ召集かけなさい、一時間後に出撃よ!」
「い、一時間てあんた!」
「天ちゃん、移動中に計画立てといてね」
「はい、じゃ、行きましょうか、捲簾」
* * * * * * *
軍勢は凍りついたように、動きを止める。
「こ、このアマ、それに触るんじゃねえええ!」
「ふふふ、てことはこれがあんたたちの本体ね」
祠の入り口から姿を現したは、手にした古びた銅鏡を空にかざした。
「それを平気で手にしやがるとは、てめえ、タダモンじゃねえな?!」
「今わかったの?遅すぎるわよ、あんたたちも大した器じゃないわね。
そぉら!天ちゃん、そこに架けて!」
放ってよこした銅鏡を受け止めて天蓬は倒れかけた。
「す、すごい妖気ですね…この枝でいいですか」
「オッケーよv…『オン、アボキャ、ベイロシャナウ、マカボダラ、マニ、ハムドマ、ジンバラ、ハラバリタヤ、ウム』!」
真言が発せられた瞬間、妖怪の親玉はその鏡に吸い込まれて消えた。
西方軍が喚声を上げて、残りの妖怪に突撃する。
10分もしないうちに、残党はことごとく捕えられた。
「姫将軍、ご無事で!」
「全員無事ね。あ、この○りかべ君だけ骨折か」
「もうなんとでも言って下さい…」
「ギブス固まった?じゃあ、松葉杖ついて歩けるわね」
はメガホンを取った。
「はい注目!今日は現地解散とする!
真武、捕虜の連行と収容は今日はあんたが管轄しなさい!以上!」
「じゃ、行くわよ!」
は前回の討伐で買い込み、経費で落として敖潤に散々文句をつけられた
4WDのハンドルを握ると、捲簾と、肩を貸して乗り込んだ天蓬を
振り落とさんばかりの勢いで山道を下りだした。
「なっ…痛ぇ!」
「舌噛むわよ、黙ってなさい!」
車は駅前の大通りに面したこぎれいな立ち食い蕎麦屋の前で停まった。
「タカフジソバ…?」
「よかった、新しいかき揚げの時間に間に合った!」
(続く)
次回は誰が出てくるかなんてもうわかりきってますが…
うーん長くなってしまった。