5 トリプルカウンター

「何よ、駐車できないじゃない」

「もともとここ路駐禁止ですけど」

「普段はそうだけど、捲簾が怪我人だから言訳たつでしょ、
折角まん前駐めてけると思ったのに」

「いや、それ以前にあんたら状況見ろって」

パトカー。サイレン。立ち入り禁止のテープ。

「フジコォォー!フジコだけは無事で返してくれー!」


「なんか起こってる?」

「こら!そこの4WD!どきなさい!」

「何よ、警察如きが」

「また下界でトラブると西海竜王の胃病が悪化しますよ?」

「あーまたブツブツうるさいのよね…」


「で。何が起こってるの」

命令し慣れたのでかい態度に、とろそうな婦警は思わず口を開いた。

「このお蕎麦屋さんに強盗が入りまして、
奥さんを人質にして逃亡用の車と
1,000万円を要求してるんです…」

「街の蕎麦屋に立て籠もるって何でまた?」

天蓬が面白そうに畳み掛ける。

「あの、このお蕎麦屋さんのジンクスが外れた恨みで…」


そう、「タカフジ蕎麦」には伝説があった…
青春台はJ○との接続駅で、J○沿線には競馬場と競艇場がある。

実家を勘当されて蕎麦屋を開いたこの夫婦は、
青春台で伝説のテニス部の黄金期レギュラーであった。

寿司屋上がりの主人の稲荷の美味さ、
かき揚げの歯切れにも人気は集まり、
日々上々の集客なのだが、

競馬と競艇の日は行列が七廻りという騒ぎになる。

女将の機嫌がよければ繰り出される返し技(カウンター)、

替え玉を投げ込む「羆落し」

卵追加の「ツバメ返し」

お釣り要らないよ、の声に答えお釣を引き戻す「白鯨」。

このトリプルカウンターのどれかを受けて行って、
大穴単勝を中てた、連番で差し込んだ、という話がひきもきらないからだ。


「あの人は借金をどうにかしようと消費者金融から借りまくって、
2時間待ちしてここに入って、でも女将さんのどの技も出なかったんで
行って鉄板の一番人気だけに全額つっこんだのに、
トップのウマが転んで二番も巻き込まれてすっからかんに…」

「ひでぇ逆恨みじゃん」

「そーんなアホ独りのために私が楽しみにしてた蕎麦が食べられないわけ?
折角、かき揚げが揚がる時間に合わせたのに!」


そこに現金輸送車が到着した。

「竜崎!」

「は、はい!」

「受け渡し役は普通の女という指定だ!お前、上着脱いで行け!」

「ねえ」

は行きかけた彼女を押しのけた。

「私が行くわ」

「な、何ですかあんた」

「ご覧の通りのただの民間の美人よ。武装もしてないわ。
あっちを刺激しないためにはほんとの民間人のがいいんでしょ?」

「で、でも民間の方を巻き込むわけには…」

は、嫣然と微笑して、署長の耳に唇を寄せる。

「あ、あのっ」

ぼす。

の体の陰で署長の鳩尾に一発決まった。

「婦警さん、介抱したげなさい」

あっけにとられる一同を尻目に、

現金の詰まったバッグを手にしたさくら子は鼻歌まじりに、

店に入っていった。

「あー、大丈夫かなあ…」

腕組みした天蓬に、婦警は倒れた署長も忘れてすがりついた。

「あ、あの方に何かあっては始末書どころじゃ…」

「いや、俺ら心配してんの、犯人の方」


「か、か、金を寄越せ!」

つまらなさそうに座っている女将に包丁をつきつけた
しょぼくれた中年男はぶるぶる震える手を出した。

「ほら、ここよ…あ、汚れるなあ。
奥さん、そこの新聞使っていいかしら」

「気遣って頂いちゃってすいません。
ええ、そこの○日使ってくださいな」

は卓に新聞を広げ、ざあっと帯封をした札束をあけた。

「し、新聞紙かなんかだったら、こいつもお前もぶっ殺すからな!
ど、どれか…そのお前の手の下のを抜いて、封を切れ!」

「これ?はいどうぞ」

は、わしわしと拡げた札を、男の顔の前で振って見せる。


「フジコぉーーー!」
外から涙声の絶叫が聞こえる。


「あ、旦那さん、かなりキテますね、奥さん」

「もう、タカさんったら心配性v」

「あんな調子じゃこの人出しちゃった後、かき揚げ、できますかしら。
ここのかき揚げ蕎麦を楽しみに今日はこっちまで出張して来たんです、私」

「ありがとうございます。
それがね、今日最後の海老を混ぜたところでこの人が来ちゃって、
置きっぱなしでタカさん、外出されちゃったでしょう。
タカさん職人気質だから、もうその種じゃ揚げないんじゃないかな」

「そ、そんなぁ!」

は床に座り込み、女将の裾を握った。

「そこを奥さん、何とか!一人前でも!私、お腹すごく丈夫ですから!」

「うーん、保健所に内緒にしてくれます?」


「て、て、てめーら、何のんきに世間話してやがるんだ!」

「あ、まだいたんだこの人。お金持って出てってくださいよ」

「だ、大体女将、あんたが俺にカウンターを出してくれねーから!
こんなことしなきゃならねーんじゃねえか!謝らねえうちは解放しねえぜ!」

僕に謝れと?」(開眼)

男は凍った。

その手首をが撃ち、包丁が床に落ちる。

「あ、お客さん、店で殺さないでくださいねーv
掃除するのタカさんだから。
(自分はしないらしい)

「じゃ、奥さんの襷貸してくださいよ」

「はい」

はてきぱきと男を縛り、店の外に蹴りだした。


「フジコォォーーー!無事かぁあああ!」

泣きながら主人が駆け込んでくる。

「こちらのお客様が助けて下さったんだよv
お礼に飛び切りのかき揚げ蕎麦、ご馳走しなきゃ」

「ありがとうございますありがとう!ああっ!でも、種が…」

女将はにウィンクし、
カウンターの下からラケットを取り出して主人に握らせた。

「ウォッシャーバーニングゥゥ!お客さん腹は丈夫かいベイベー?」

ファイオー!三人前よろしく!」


「この稲荷もサービスです、どうぞv」

無事にかき揚げ蕎麦にありついた三人は
三杯目のお替りをすすりこんでいた。

「ありがとうございます。ところで、奥さん、
あんな男、ほんとは奥さん一人で手玉に取れたんじゃないですか?」

天蓬の言葉に、女将はにっこりと麗しい笑みを返した。

「んー、最近、ちょっと普段の日の客足が落ちてたんで…」

「TV中継の宣伝効果狙って付き合ってたわけですか…」

「経費もかかりませんしねv」


「美人だけど、こえー、あの奥さん」

「男よ、あの人」

「えええっ!」

「いいじゃん、あんた達も夫婦なんだから」

「やだなぁさんてば照れるじゃないですかv」

「俺はまだそんな気は…ぐほぁっ!」

「あ、まだ痛むみたいですね、その脚」


Genius666に続かない
うーむしょうもなくてすみません。



とろろ蕎麦とキャオルちゃんを出せなかったのが残念
(他にもっと後悔すべき点はこの際目をつぶってください)