愛する神の歌




「ああ?」

思いっきり眉が寄った次の瞬間、銃が火を噴いた。

「ちょっ!話は最後まで聞けって!寺ン中で人殺すか?!」

「寺の中で女買った話なんかしやがる屑は人の数に入らん!」

昨日、廓で、と切り出しただけで、これだ。

「だから、そうじゃなくて八戒の話だって!頼むから聞いてくれっつの!」

この坊主しか、相談できる相手はいなかった。

ことが、死んだ筈の「猪悟能」の罪に関わるとなれば。

「…で、お前、どうするつもりなんだ」

一通り話し終えると、第一声はそれだった。

「とりあえず、あそこからは出してやりてぇけど…」

「身請けの金を借りたいってんなら、何とかしてやる。だが、その後だろう、問題は」

…そこだった。

医者にかけて何とかなるものなのかも、わからない。


かといって、施設やなにか、に入れるのは…

あの娘は自分を守る術を持たない。

男を煽らずにいられない姿かたちで、素っ裸で歩いてるようなもんだ。

尼寺だって、今は陰で尼にさえ客を取らせるような場所はざら。


…わかっている。

その先は一つしか答えがない。

だけど…


「お前と八戒が面倒見るのか?」

がりがり頭をひっかきまわした挙句、

座ってられずに窓際に立っていった俺の背中に、

奴は容赦ない追い討ちをかけた。

「…わかってんだよ。体切り売りさせずに暮らさせんの、

それしかねーって。だけど…」


悟能の罪。

八戒に、それと対面させ続けるのは…

八戒に話せば、奴はどうにかしようとするだろう。

俺より巧い方法を考えるかもしれない。

でも、話すだけで八戒は、十中八九、道に転がっていたあの頃に引き戻される。

俺はそれを見ているのは辛い。そんな思いはさせたくない。

けれど…


「八戒がまた悟能に戻って自分を苛むのは見たくない。

だが、悟能の罪で不幸になった娘のことを隠して、

その娘を見殺しにするのも耐えられない。

…それはてめえの都合だ。

八戒のためを思って隠しきれるならそうすりゃいい。

ばれたときもしらを切り通せ。出来るもんならな」

「…出来る訳ねーじゃん…あいつに嘘つき通せたためしなんかねーもん」

「じゃあ、話せ。お前一人で決めるのがそもそも間違いなんだよ。

俺に決めさせようってのもな」

「…三蔵」


もう話は終わった、と、三蔵は今回の使いの手当を俺に放ってよこす。

「…サンキュー」

「柄にねえこと抜かすな」