愛する神の歌
3
「ああ?」
思いっきり眉が寄った次の瞬間、銃が火を噴いた。
「ちょっ!話は最後まで聞けって!寺ン中で人殺すか?!」
「寺の中で女買った話なんかしやがる屑は人の数に入らん!」
昨日、廓で、と切り出しただけで、これだ。
「だから、そうじゃなくて八戒の話だって!頼むから聞いてくれっつの!」
この坊主しか、相談できる相手はいなかった。
ことが、死んだ筈の「猪悟能」の罪に関わるとなれば。
「…で、お前、どうするつもりなんだ」
一通り話し終えると、第一声はそれだった。
「とりあえず、あそこからは出してやりてぇけど…」
「身請けの金を借りたいってんなら、何とかしてやる。だが、その後だろう、問題は」
…そこだった。
医者にかけて何とかなるものなのかも、わからない。
かといって、施設やなにか、に入れるのは…
あの娘は自分を守る術を持たない。
男を煽らずにいられない姿かたちで、素っ裸で歩いてるようなもんだ。
尼寺だって、今は陰で尼にさえ客を取らせるような場所はざら。
…わかっている。
その先は一つしか答えがない。
だけど…
「お前と八戒が面倒見るのか?」
がりがり頭をひっかきまわした挙句、
座ってられずに窓際に立っていった俺の背中に、
奴は容赦ない追い討ちをかけた。
「…わかってんだよ。体切り売りさせずに暮らさせんの、
それしかねーって。だけど…」
悟能の罪。
八戒に、それと対面させ続けるのは…
八戒に話せば、奴はどうにかしようとするだろう。
俺より巧い方法を考えるかもしれない。
でも、話すだけで八戒は、十中八九、道に転がっていたあの頃に引き戻される。
俺はそれを見ているのは辛い。そんな思いはさせたくない。
けれど…
「八戒がまた悟能に戻って自分を苛むのは見たくない。
だが、悟能の罪で不幸になった娘のことを隠して、
その娘を見殺しにするのも耐えられない。
…それはてめえの都合だ。
八戒のためを思って隠しきれるならそうすりゃいい。
ばれたときもしらを切り通せ。出来るもんならな」
「…出来る訳ねーじゃん…あいつに嘘つき通せたためしなんかねーもん」
「じゃあ、話せ。お前一人で決めるのがそもそも間違いなんだよ。
俺に決めさせようってのもな」
「…三蔵」
もう話は終わった、と、三蔵は今回の使いの手当を俺に放ってよこす。
「…サンキュー」
「柄にねえこと抜かすな」