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見上げると随分空が 高くなっていることに 気が付いた。
いつものバス停を降りる。
道端を何気なく見渡してみると 一面ススキが穂を揺らしていた。
「この前まで暑くて 寝られなかったのに......」
独り言を言っているその顔には、何かを思い出したように 幸せそうな笑みが浮かんでいた。
この街に溶け込んで生活をするようになって 一年が過ぎようとしていた。
誰かが過去を詮索するでもなく、自分から話すわけでもない。
すべてにおいてココは 居心地が良かったのだ。
 
「ねぇ?」
「はい?」
「何にやけてんの?」
「ははっ、にやけてましたか...いえ最近、何でもないことに小さな幸せ感じちゃって(笑)」
「おお!守りの態勢?らしくないんじゃない?」
いたずらっぽく悟浄は笑って言った。
久し振りの休日前夜。
アプリコットフレーバーの紅茶を入れのんびり寛ぐ。
「寝る前に飲むと寝られなくなんじゃねーの?カフェインはいってるだろ!」
「あっ僕、全然平気なんですよ(笑)そういうの関係ないみたいです。」
「ふーん、デリケートそうなのに。一年そこらの付き合いじゃ深い所までわかんねーな、お互いさ。」
「知りたいですか?(笑)深いところまで」
「なーんだよ。意味深な。って結局焦らすんだから可愛くねーの。」
「僕は大分あなたがわかりましたが(笑)」
「解りやすいっていうんだろ。どーせ!」
「ははは、僕も案外図太いんですよ。」
「食う?」
「はい。」
ソファー越しに悟浄が差し出す。
「うめぇだろ?地域限定九州しょうゆ味だって。」
悟浄はさっきからクッションを抱えてポテトチップスを頬張っていた。
「よそ見していたら字幕流れますよ。」
「俺くらいになると原語で耳から入ってくんの。」
「じゃ今なんていいました?」
「聞こえなかった......」
「そういえば広島お好み焼き味もおいしいですよね〜。」
 
 
「食ったことあんの?」
「はい戸棚にしまってありましたが?」
「二人で食おうと思ったのに...まっ、いいけどさ。それにしてもすっかり夜も涼しくなったな。」
「9月もあと少しですね。今年の冬は寒いんでしょうか。」
「なぁに年寄りくせぇこと言ってンの!」
 
9月も後少しか....
あっ!
そっか。
忘れてたぜ。
もしかして?
悟浄は必死で頭のスミのメモ帖をを引っ張りだした。
明日、こいつの誕生日でやんの...
 
 
あんまりお互いのこと知らないけど
誕生日と血液型は知ってンの
オトメチックで笑えますがね
だって医者にかかるのに必要だったから
輸血できなかったのがちょっと悔しいんだけどさ。
 
 
何で俺の前で倒れてたんだろなぁ....
 
「どうしました?」
「ちょっと、タバコ買って来る。」
「買い置きなかったですか?」
「うん。すぐ戻っから。」
「ビデオどうします?」
「止めといて!あとで一緒に見るから。」
 
ドアを閉め、足早に階段を駆け下りた。
あいつ何やったら喜ぶかなぁ。
イマイチ何好きか解んねぇーな。
でもよ、俺の秘蔵ポテチ食うとこ見るとお菓子好きかぁ?
んなわけねぇな、俺じゃねーんだし。
と、なると「本」とか?うーんいいエロ本なら解るんだけど、あいつインテリっぽいしブーッ!ボツ!
CD......あややとか聞かねぇな...クラシック?なんたっけあれ、カマドウマじゃねやヨーヨーマ。
俺が眠くなるって...花?(笑)ダメダメ馬鹿にされるっちゅーの。
取り合えず ”乾杯” だろうなぁ。

 

 

  

 




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