What Happen Tomorrow?

しきりに窓を叩いていた風も夜半過ぎには収まり、穏やかな夜明けが訪れようとしていた。
少しずつ増えてきた部屋の彩りも今はすっかり取り除かれ、殺風景な剥き出しの壁が薄闇の中に沈んで見える。

「いよいよ・・・ですね。」
「・・・だァな。」
「そうだ、タオルと歯ブラシ。新しいの、入れときましたから。」
「よかったんじゃねーの、買ってかなくても。経費は三仏神持ちなんだろ?」
「自分達の洗面道具くらい、こっちで用意していきたいじゃないですか。」

冷めきった空気の中で、その片隅だけには秘やかな温もりが息づいている。
こうして互いを繋ぎ止めながら、何とか3年間をやり過ごしてきたのだ。
今度こそ、手に入れたい男と。もう二度と、失いたくない男と。
だけどそんな緩やかで危うい日々も、あと数時間で終わりを迎える。

「ジープは、大丈夫でしょうか。今までそんなに遠出させたこともないし、重い荷物を運ばせたこともないのに。人前でそう変身もできないでしょうし、餌だってちゃんとあげられるかどうか・・・」
「オマエさんこそ大丈夫?慣れちゃいねえだろ、長時間の運転なんて。」
「優しいんですね、悟浄。優しいついでにお願いしちゃいますけど、煙草の灰、あんまりシートに落とさないでやって下さいね。」
「おいおい。三蔵にも言えんのか?それ。」
八戒はそれには答えず、僅かに腰を押し付けて、悟浄の中に収まったままにしていたものをそうっと動かした。
「ふぅっ・・・」
悟浄が朝焼け色の瞳を細めて、ゆっくりと息を吐き出す。

っていうかオマエ、そのまんまの姿勢で日常会話続けるなっつの。



「あっそうそう。話は変わりますけど。」
「何で、ゴザイマショウ?」
・・・ まだ喋るつもりなのね。
「結局僕、ここで3年もご厄介になっちゃったんですね・・・有難うございました。」
「・・・いいや。」
自分の方が厄介になってたという認識は、一応残っているわけだ。

「・・・長かった、ですよね。」
「・・・まー、な。」
「何だか逆に、あっという間に過ぎたような気もしますけれど・・・」
「まー、な。」
「悟浄。どっちなんです?」
「・・・ワカンネ。」
八戒が少しムッとしたように、悟浄と繋がっているその部分から、自らを一層深く突き挿れる。
「んぁっ」
不意をつかれた悟浄の喉元から、思わず大きな嬌声が零れ出た。

「本っ当に感じやすいですよね〜、悟浄のカラダって。」
うなじに触れるか触れないかの位置で、八戒の唇が心底愉しそうに囁く。
「うるせっ。オマエ一体、いつまでこんな・・・っ」
それ以上の反論は思い留まって、悟浄はあとに続く筈だった言葉をぐっと呑み込むことにした。
だって今は、少しでも触れ合っていたい。こんなふうにして朝を待つことも、暫くは叶わなくなるに違いないのだから。

ちろちろと耳元に舌を這わせながら、 八戒は硬くなった悟浄の胸の突起をそうっと指で押し潰した。
相手が半ば眼を閉じて、感覚に身を任せきるのを確認してから、間髪入れずにその肩先へと歯を立てる。
「イッ・・・てめっせっかく人がっ」
クスリとひとしきり笑ってから、八戒は俄に真顔になった。
「何1人でイイ気持ちになってるんですか!僕まだ、答えて貰ってないんですけど。」
「何よ?答えって。」
もう一方の手で悟浄の内股に触れながら、八戒は自分の付けた噛み痕から滲み出た血をこれ見よがしに舐めてみせる。

「ですから、どうなんです?もっと僕と2人きりで居たかった?それとも終わって清々した?」
「おまっ・・・ずりーよ、こんな・・・時にっ」
「今訊かなくていつ訊くんですか。三蔵達と一緒の時に、痴話喧嘩なんかしたくないでしょう?」
八戒の中指と親指が、しとどに濡れそぼった悟浄の先端をクッと締め上げた。
「うぁっ」
長い腕を首下に巻き付けて、悟浄は八戒にひしとしがみつく形になる。
「このヤロ・・・またオマエはそうやってっ」
自分でも浅ましいと呆れながらも、悟浄は激しく腰を動かして八戒を最奥へと誘い込んだ。

いつもならそのまま呼吸のリズムまで合わせてくるのに、八戒はわざとタイミングをずらして悟浄の気を散らそうとする。
「なあマジッ・・・もうイかせろってっ」
悟浄はもうヤケクソで、八戒の胸元にむしゃぶり付いた。
片方の突起を弄ぶ指の動きに合わせてもう一方に舌を這わせれば、堪えた八戒の口元からも、詰めていた吐息が密かに漏れ出してくる。
それでも無理矢理平静を装ったまま、八戒は更に言葉を続けた。
「んっ・・・いいえまだ、です!僕と暮らした3年間は、アナタにとって長かったんですか・・・短かったんですか!?」

何だってそういっつも、穏便にピリオドが打てねえのよ、オマエってヤツは。
イヤな結末が襲ってくるより先に、てめえで物事ほじくり返してぶっ壊しちまうんだろ、そうやって。
「短かろうが長かろうが・・・俺らが一緒に過ごした事実は、誰にも消せねえだろがっ!」

八戒の翡翠の双眸が、ひとしきり大きく見開かれた。
それはすぐに細められると、この上もなく甘やかな光を湛えながら悟浄を真正面から捉えた。
とうに役割を失っていた枕が、几帳面にまとめられた傍らの荷物を目掛けてゴロリと放り出される。
剥き出しの寝台がギシリと軋んで、二つの動きが一つの大きなうねりになった。

胸ん中のポンプの音って・・・こんなにドクンドクン煩かったっけか?

漸く呼吸が整った頃、何を思ったか悟浄の口から、突然飛び出してきた言葉。
「あの、さ。コンドーム代って、経費で落ちるのかな?」
八戒が片眉を高く吊り上げた。悟浄は我ながら莫迦なことを訊いたものだと思ったが、もう遅かった。
キャラメルクッキーの練り鉢のように甘ったるい作り声で八戒は、
「さあ?それはアナタに申告する勇気があれば、の話ですよね。」
「ってか俺かよ、申告すんの。」
「おや、僕は別に構わないんですよ?なくっても。」
明らかに面白がられているのは、充分承知の上。
「あーハイハイ、そうでしょうとも。」
「そうだついでに、貞操帯でも頼んじゃいましょうかね〜っ」
「・・・も、いいです。」



隣の部屋から、半分寝ぼけた状態のジープが、時折パタパタと壁に羽根をぶつける音が聞こえ始めた。
耳慣れたその音に朝の気配を感じながら、悟浄は思う。
きっとこれから先の方が、長えんだろうな。ずっとずっと。

いつ果てるともない旅だけど・・・取りあえずイッとくか?どこまでもオマエと。

「明るくなってきましたね。最後にもう一度だけ、この家のシャワーを浴びてから出掛けませんか。」
「いいか。シャワーだけ、だからな。」
「分かってますって。」



・・・十分後。

「だぁからシャワーだけだって、言っただろうがオマエはよっ!」
「え〜、だって悟浄。」
「こらやめっ・・・おいって!」

俺って結局・・・こいつを甘やかしすぎだから。



......but nobody knows what's gonna happen tomorrow.







Bon courage et bon voyage ! 


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What Happen Tomorrow by DURAN DURAN ('03)


近頃「実は繋がっちゃったまま、普通〜に会話しているヤツらが書いてみたい」なんて
言っていたのですが(某絵掲でも迷惑省みず、随分遊ばせて戴きました・・・)
普通〜に会話はしているものの、節目の話にはなりました。
結局どっちも、スキンシップなしには生きられないでしょ。この人達。

耽美というより、思いっきり砂吐きになってしまってごめんなさい。
「3580総出演」のキリ番を申告して下さった、チキ様に捧げます。
(音楽サイト側に歌詞の対訳も寄せて下さっていますので、
興味のある方はぜひ覗いてみて下さい。)

(2003.1.1.) by 猫夫人様

All night confusion」の猫夫人様からキリリクで頂きました。
こいつは春から縁起がいいや〜v
新生DuranDuranの新曲に寄せて書いて頂きました。
Many thanks!
チキ