001:プロローグ クレヨン
靴底で、何かが潰れた。
アスファルトに粘りつく、赤。
「あっちゃ…」
子供が落としたのだろう。
赤い、クレヨンの欠片。
縁石に擦り付けてみても、
めり込んだ色は汚れただけだった。
時計はもう55分を過ぎている。
「ちぇッ」
振り返ると、自分の歩いた後に
スタンプされる、赤い跡。
帰る頃には漸く、道に色が付くことも無くなっていた。
グレイの空から、小雨がぱらつきだす。
襟を立てて走り出しかけた目の端に、
あの、赤が映った。
地味なカーキ色のコートのポケットから掴み出された
マルボロの箱。
夕闇に紛れ込むような地味な装(なり)の後姿。
ただ、髪だけが、真昼の陽の暖かさで
薄ら寒さを払った。
ただそれだけのことだったけれど、
あの日から、今まで、
一直線に何かが、つながり始めていたのかもしれない。
002:階段