004:マルボロ




「10円足りねェや……」
自販機の前で小銭を数えたが、煙草を買うのには足りなかった。
コンビニに寄るのも煩わしかったので、
夕食を済ませてから買えばいいやと自分に言い聞かせた。

残りは僅か1本。
最後のそれに火を着けると包み紙をごみ箱に投げ捨てた。

「ラッキーデイだっ。」

うまく入ったのを見届けて悟浄は足早に小春屋へと向かって行った。

「こんばんわっ。」

「毎度様、お腹空いたでしょ(笑)こんな遅くまで。」

「もぉペッコペコだぜ、おばちゃん。今日のお薦め何?」

「何がって聞かれたら全部だけど。」

「あはは、そうだね。じゃ豚汁とね、この角煮とじゃこサラダに生卵1個。
 御飯は大盛りにして。」

「はいちょっと待ってて。」

急いで注文を済ませるとグルっと辺りを見回した。

「今日は来てねェのかぁ。」
悟浄はポソッと呟いた。

ここ何日か仕事が立て込んでいて、職場で簡単な夕食ばっかり取っていたので
小春屋に来るのは5日ぶりくらいだろうか。

座ったとたんに三蔵の姿を探してるなんて…

よっぽどあいつのこと気に入ってんだなと妙に納得してしまう。

「忙しかったのかい?ここ何日か見なかったね。」

「うん、おやじさん。今ね忙しい時期なのよ。もぉくったくた。」

「そういえば三蔵君も来てなかったな。はい、お待たせ。」

「ふーん、そうなんだ。」

生卵を小鉢で溶きながら、なるべく無関心そうに答えた。

徐に大盛り飯にかけると美味そうに食べ始めた。

「美味そうに食うな、悟浄君は。」

「だってうまいんだもん。」

そんなやり取りをしていると背後から冷たい空気が入り込んで来た。

「いらっしゃいませ...あらっ久し振りだね。」

三蔵?と期待して振り向くと他の常連客だった。

気を取り直して続きを食べ始めたが、なんだか心臓がドキドキしていた。

「ご馳走様、今日もおいしかったです。」

無意識に右手をポケットに入れたが、そういえば煙草はさっきので最後だった。

「煙草かい?」

「うん、きらしちゃった(笑)」

「これ持って行っていいよ。お客さんの忘れ物だけど、滅多に来ない人だから(笑)。」

「じゃ遠慮なく。どーもですっ。」

小春屋のおかみさんが差し出したのは封が切られたマルボロだった。

外に出て暫く歩いてからジッポで火を着けた。

いつもとは違う味が身体に入って来る。

「三蔵…ってか。」

今頃何をしているのだろうか。

今度逢ったら携帯の番号くらい聞いとくべきだなと悟浄は思った。

あまり何も知らなさ過ぎるのは自分にとって正直でないことを悟ったから……



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