Je 'aime... moi non plus


シャツの中に手をねじこむと、素肌しかなかった。


「ブラ、してねえのか?」
「要らないもん」
「早く垂れんぞ」
「垂れる程ないもん」
憎まれ口を叩く唇を塞いで、
張り詰めた可愛らしいふくらみを、きつく掴む。


「…っ」
あちこちかぎ裂きのある、ぴたぴたのローライズも、
思ったよりてこずらせずに、なめらかな腿を滑っていく。
5cm程しかない猫ッ毛の頭を抱き込むと、
細い頚が、このままへし折れそうだな、と思う。
どうでもいい女はいくらでも、もっと優しく抱いてきたのに。

痛いと言う言葉を堪えているのことが嫌いなら、
触れなければいいのに。
綺麗な顔が歪んでる。
でも汚いのは俺で…もっと優しくできる筈だろ?


小さな尖りを唇で転がす。
揉みしだくにも、指先に納まってしまう胸。
余る掌底の下で、びくびくと震える肋骨が感じられる。
「やっぱ、こういう掌サイズの乳っていいよな」
片手を下肢に忍ばせていきながら、囁く。
「からか…わ…ないでっ!…ふっ…う…」
涙目が睨みつける。
「マジだって。…意外と巨乳好きって少ないんだぜ?現実には」

反射的に折り曲げられる足を自分の膝で組み敷いて、
ピアスが沢山開いた耳朶を嬲る。

「あ、八戒は巨乳好きだけどなー」
は、激しくもがき出した。
入りこんだ指から逃れ出て、身をよじる。
「…何?どした?」
上にのしかかった体を撥ねのけ、息を弾ませている、小さな濡れた口を見つめた。
(スルのやなら…あっちで終わらせてくれてもイイけど…入るかねえ?)


「八戒、八戒、八戒って…何回言ってんの?!
八戒とすればいいでしょ!もう!」
シーツをかき寄せながら、はぷいと横を向く。

こういう風にやっとくたびれさせたジーンズ、八戒はボロっちいとしか思わねえの。

八戒のピアスって孔開いてないぜ?

八戒も猫ッ毛だから、あん位伸ばしてなんとか落ち着かせてる。

八戒は。

八戒なら。

…そう来たか。


だって、八戒、もう俺に触らせてくれねーもん。
お前のことばっかり考えてるもん。


「…もう言わねえよ。−な?」
シーツごと、柔らかく抱き寄せると、もおとなしく引き寄せられた。

にはやはり巨き過ぎる悟浄を受け入れるときも、
が掴んでいたのは枕で、悟浄の背中に爪を立てさえしなかった。

「水、飲むか」
「うん」
ベッドの傍に置いてあったPBを掴んで渡すと、
は喉を鳴らして美味しそうに飲んだ。

悟浄は身を起こし、煙草に火をつける。

「頂戴」
「おら」
咥えていたのを渡して、悟浄はもう一本振り出した。


細い腕に、押えつけた痕が、青く鬱血しているのが眼に入る。
苦いものがこみ上げた。

「…悪ィ」

鬱血の痕をそっとさする。

「気にしないで」

は、ゆらゆらと天井に上っていく煙を見つめながら、
あっさり言った。

「優しくする気分じゃないときってあるよ」


悟浄が好きなのは八戒。
八戒が好きなのは…

八戒の中でこしらえた、

清潔で、

守られるためにいるような、

こんな投げやりな優しさなんて無い、

どこにもいない女の子だ。


八戒があたしそのものを見てくれたって、
八戒を好きになれたかなんて、判らないけど。

多分そうはならない。
あたしは籠に入れない鳥だから。
誰かを愛するって、知らないから。


玄関の鍵が廻る音がする。
がさがさと言う音がキッチンに移動していく。

「どうする?」
「どうしようもないじゃん」

玄関に転がったドク・マーティンスを見たら、
八戒はあたしが居る事は判ってる。
居間にも、キッチンにも居ないあたしが、
どこに居るかだってすぐに判る。

押し殺したような八戒の足音が近づいてくる。

ノブに手をかけたまま、ためらっていたけれど、
…がちゃりと、ドアが開いた。