夢が夢なら 3
Side 三蔵
は変わった女だと思った。
女と−いや、男でも同じだが、他人といるときの煩さを感じさせない。
自分に関心を向けてくれ、とせっついてくるものがない。
はあの野郎に、何もかも捧げていたからだ、
と気付いたのは、あいつがいなくなってからだった。
自分の心の置き場所がどこにも見えなくて、
泣きたい癖にいつも、は
泣く代りになんとか笑う顔を作った。
あいつが泣くのを嫌ったからだ。
泣く女があいつの厭な記憶を引っかこうが、
には関わりがないだろうに。
あいつはまるで試すように、
連絡も無しに家を空けたり、不機嫌をもろにぶつけたり、
妙な仲間とつるんでを放っておいたり、と
泣かせるような真似を繰り返した。
猿が憤慨して俺に訴えてきたものだ。
「がたまんなくなって、こっそり泣いてるとこに
悟浄、帰ってきてさ。
あてつけんなよ、ってだけ言ってまた出てっちゃいやんの!
酷いじゃん、あんなの!」
素堅気の家で親に逆らったこともなく育ってきたが、
自分に会わなければ、
生まれたときから用意されていた、
穏やかな幸せに浸っていられた。
自分では、を幸せに出来ない。
だから勝手をし尽くして、いつでも自分から逃げ出せるようにしてやる。
頭なんか使わねぇ癖に、しち面倒くさい理屈つけてんじゃねえよ。
が泣くと、泣かせた自分に腹が立って、
そういう風に仕向けたに八つ当たりしてた、
テメエはただの駄々ッ子だ。
大体、そんな理屈一つ、通しきらないでおさらばしたんじゃ、
はいつお前から逃げ出したらいいんだ。
そして俺たちがてめぇの尻ぬぐいかよ。
一人で何にもできねぇ癖に、
惚れた女一人の始末もつけられねぇ癖に、
俺だけのもんだ、なんてイキがってんじゃねえよ。
「今夜は、三蔵がついていて上げて下さい」
「…断る」
「−悟空と僕だけを悪者にするんですか」
俺達は既に共犯者なのに、何でこいつは駄目押しをしたがるのか。
猿のときと同じように、は殆ど声を立てなかった。
ただ、するすると流れ続ける涙が、
俺の髪までも湿らせた。
Fin.