「ああ、ココが禁男 いや禁断の男湯(の脱衣所)なのね♪」

「つっても女湯のと何も変わんないだろ…ぶち抜いただけなんだし」

「クロハチナマコの所長さん、どうも早くからお越しで」

舞台袖から現れた番頭(本日司会進行 百足小路きよまろ)
に、独角児は一升瓶の袱紗を解いて渡した。

「あ、番頭さん、これ、オーナーさんに…」

「あれまあスポンサーさんにこんなに気遣って頂いちゃって、
焔伸介ももう増量サービス全開デスよもう。
おおこれは銘酒「鬼ころし」!・・・
あの、奥様はいったい何を」

八百鼡はまだ使われてないロッカーを1つずつ開けては覗いている。

「だって今日以外は覗けないでしょ?何か青春のかほりの忘れ物なんかあったら記念に…」

「何もありませんてば、我が毎日ちゃんと忘れ物チェックしてますから」

「なーんだつまんない」

「奥様もたまにはいらっしゃるとわかりますが当浴場は清潔純潔を旨としましてですね」

「あー清さんやめといてくださいよ、『神田川』ごっこしようとか言い出すから。
でも風呂に1時間、髪乾かして結うのに2時間、
その間付き合ってたら俺、死ぬから」


「うちも困りますよ我以外に死人なんか出ちゃ」

「えっ清さんて死人なの?」

「保健所には内緒ですよ?」

「人に歴史ありですわねぇ」

「奥さんそれちょっと違います…そろそろ、前説も始まりますよ、
皆さん、お席にどうぞ」

清は舞台に上がってうろうろする客たちを座らせた。

「ちょっと、そこの樵夫婦!脱衣所だからって相手の服なんか脱がせないで下さい!」

「あはは、つい習慣で」

「すぐ底の割れる嘘はおやめなさい!
いつもあなた方自分で脱いでるじゃないですか」

「あ、番頭さんてば俺のビッグマグナム見ちゃってたの?
タダじゃ見せないって決めてんのに〜」

「隠そうとしても隠れないから無理ですよ捲簾、くすくす」

「お黙りなさい!仕事じゃなきゃ誰があんなモノ見ますか!」

「あ、あんなモノ…」

「我が見たいのは色白で華奢で傷跡が痛々しい美青年だけですっ!」

「ボクも華奢ですよぉ顔も実はナマコのお兄さんと同じだし〜」

「あなたは恥じらいがないからダメ!
当欲情いや浴場は品位ある社交場なんですから、
今度よそのお兄さんのマグナムなんか掴んだら
レッドカードで退場ですからね!」

「ちぇー」

「小学生かお前は…」

こんなまとまらない客でいいんだろうか。
清は一抹の不安を覚えつつ
前説の芸人を呼びに行った。

伝説のほのぼのネタ「減点父さん」で
それなりに売れたものの
いつのまにか温泉ヘルスセンター廻りまで落ちたという
父子漫才師だったが、

楽屋口に入ったとたん、

どんがらがっちゃーん!

「や、やめてくださーい!」

「どの口がゆうとるんじゃこの口かああ!」

な、何が起こっているのですか?!
風呂屋にDV法は適用されるのだろうか。

と不毛に思考を巡らせる清。

果たして前説は無事登場するのか?


続いていいのやら