036:きょうだい



モニターを睨み続けていたせいか頭痛が始まった。

寝不足と重なって余計にひどく感じられる。

同僚の私語が否応なしに耳に入り、集中出来ず自分でもイラついているのがわかった。

分煙化が始まって以来、煙草を吸うのにもいちいち席を離れなければならず、

イライラはさらに増してくる。


そんな時デスクに置いてある携帯にメールが着た。

蓮実だった。

メールはさして必要ではないので設定してなかったのを

「ちょっとした用事の時不便ですよー。使えるようにして下さい。」と押し切られた。




ー天蓬さんのメアド知りませんか?ー



「知るわけねぇだろ。」

見ぬ振りを決めようとしたが、またコンビニかどこかで出くわして

すっぽかしを責められるのもいやなので、天蓬の携帯番号だけ書いて

「自分で聞いてくれ」と返信しておいた。





また人と人との繋がりが増えていく。

まわりが何かで盛り上がっていると急に冷めてしまう。

必要以上に密着し、濃厚な関係は苦手だ。

自分が求めているときに差し出されるのはいい。

だが必要もないのに与えられるとうんざりする。

我がままと言われればそれまでだが...



時折ストレート過ぎて受け止められないが、

それでも悟浄の存在はつかず離れずで、三蔵にとっては気持ちの良い距離感だった。





「主任、飯いこ。」

悟空だった。

「何ボサッとしてんの。」

「そんな時間か?」

「とっくに過ぎてる、食いたくないのは解るけど、また倒れたら困るだろ。」

答える前に腕を引っ張られ、外へ連れ出された。

「蕎麦くらいなら食えるでしょ。」

「ああ」

悟空の後をついて蕎麦屋の暖簾をくぐった。

ピークは過ぎていたので店内は閑散としていた。

三蔵は座るといきなり煙草に火を着けた。

「ここは禁煙じゃないから三蔵には都合いいよね。」

「まぁな。」

深く煙を吸い込むと、さっきまでのイライラが少し落ち着いた。

「三蔵はざる?えっと俺は鴨南蛮とカツ丼のセットにしようかな。

 すいませーん。ざる一枚と鴨南蛮とカツ丼セットでお願いしまーす。」


注文を済ませると悟空は漫画をパラパラとめくりながら

三蔵に問いかけた。

「あのさー三蔵、また疲れてんじゃないの?午前中すげぇ眠そうだったけど。」

「そうとう疲れてるな...。」

「なんかあった?」

「あると言えばある、ないと言えばない。」

「俺には話したくないんだ。」

悟空がムッとしたのが解って少しかわいそうに思えた。

仕事の面においてもプライベートにおいても、ある程度の距離をわきまえて

行動する悟空を三蔵は知っている。

たまには頼ってもいいのかもしれない。


「昨日、捲簾と天蓬の痴話喧嘩のせいで家に帰れなかった。」

「まじ?捲兄と天ちゃんが?原因は?」

「そう芸能リポーターみたくせっつくな。」

「ははっ。つい反射的に。もしかして捲兄、浮気でもした?」

「それならそれで面白いが。まぁすれ違いってヤツみたいだ。

 なんだかんだ言って甘いな(笑)」

「喧嘩するほど仲がいいってね(笑)ごちそうさま。

俺なんか人生すれ違いみたいなもんだから
 
それで喧嘩なんてよくわかんないな。」

「俺もだ、悟空。」

交わる。

すれ違う。


無理に重ねようとしても相手の気持ちが伴わないと空回り。


意固地に軌道修正するのは性に合わない。

そんなんだから一人を選んでしまうのだ。


「お前のそれ、なんかうまそうだな。」

「うまいぜ。蕎麦って冷たいのと温かいの両方食いたくならない?」

「そうだな。なるな。」

笑顔で悟空が差し出したので遠慮なく箸をつけた。

「うまいな。」

「だろ。」

あの人の言葉を思い出した。

「あんまりあくせくピリピリしていては損しますよ。

 もう少し肩の力を抜いてもバチは当りません。私は抜き過ぎですがね(笑)」

「お前っていいとこあるな。」

「急になんだよ。」

言い返しながらも悟空は嬉しそうだった。









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