022 MD



職場に着いてからも気持ちはどこかに飛んでいた。

気にしていてもしょうがないのだが、ヤケに気になる。

孫悟空は会社の部下としても....


−あいつら二人とは毛色の違う背の高いあの男は何なんだ?
 クライアントには見えなかったぜー


「どしたの?」

「へっ?」

「へっ?じゃないってば、ぼけーっとしていつもの悟浄じゃないよ。」

「や、朝からちょっと気になることがあってさ。でもすっげぇくだらねぇこと。」

「じゃ、後で聞かせて。くだらない事ほど突き詰めるとおもしろいでしょ。
 朝から得したね。」

「そっかぁ。なんかすげぇ損した気分なんだけど...。
 それより蓮実だって変にテンション高くない?なんかあった?」

「別に、さっ移動しないと。現場は待ってくれないよ。」

蓮実が差し出したキーを受け取り駐車場へ向かった。







あの三人のアングルを捕らえた時、一瞬にして色々な考えが頭を巡った。


嫉妬と疎外感が渦を巻いているような何とも言えない気持ち。

三蔵にとって自分があまり必要ではない存在だと知らされたような光景だった。

不確定だが、そう感じざるを得なかった。

そんな空気があの場には流れていたのだ。

悟浄の感情だけが先走りしていて空回りしている...。

入り込む隙間も無い様に見えた。

勿論、声をかけて割り込む気も無かったが........。

「一体誰なんだよ、まったく......。」


「何独り言いってんの!行くよ。」


蓮実に急かされ商用車に商売道具を搬入し、現場に向かった。

「今日は風強くなくて良かったね。」

「そうだな。」


屋外での教会式が今日の現場だった。

「いつになったら撮られる側になれるんだろな。」

「心配すんな、いつでも撮ってやるよ。」

「一人で撮られてもね...。」

苦笑いしながら蓮実がコンポにMDを入れた。

車内に軽快なビートが広がり蓮実が一緒に歌い出した。

「お前へったくそ、俺の方がうまい。」

悟浄の言葉は軽く流された。

「天気良いしさ、このままどっか行きたいノリだよねぇ。
 ちょっと聞いてる?悟浄。」

アイスコーヒー片手に、ドライブ気分を満喫しているようだった。

「聞いてる、でもね、現場は待ってくれねぇの!」

「ごもっとも(笑)」

教会に着くと重い機材を分担して運び、ベストショットを捕らえるべく

真剣にシャッターを切った。

やり直しが効かない分、慎重になおかつ迅速な判断を要するのだ。


ファインダーの向こうには、初夏の日差しに目を細める幸せそうな二人。

ブーケを受け取る新婦の友人、物色しているような新郎の友人。

様々な光景が見えてくる。




「本日はありがとう御座いました、御幸せに。」

撮影が無事終了し、手身近に祝福の言葉を残すと二人は現場を後にした。


「良かったね、今日の式。」

「ああ、良い感じにホットだったな。感動した?」

「ちょっとね(笑)」

新婦の姿を見つめる蓮実の表情がいつになくしおらしかったのを

悟浄は見逃さなかった。






「蓮実、今日ちょっと付き合え。」

「いいよ。どこ?」

「飯いこ、飯。」

「いいけど、あたしに奢らせないでよ。」

「おお、割り勘だっ。食ったもん勝ちだ。」





蓮実と慈燕がどうなっているか、その後聞いてはいない。

ただ蓮実の気持ちを思うと、はっきりしない慈燕にイラ着きを覚えるのも

事実であったが首を突っ込むのはNGだろう。



「で、何食べに行くの?」

「内緒。」

「おいしいとこ?」

「激ウマ。」

「そりゃ楽しみ。黙って貴方に着いて行きますよ。」

いたずらに蓮実が寄り添って来た。

女の子独特の微かに甘い香りとふと触れた柔らかい腕。

忘れていた感触に脳が反応した。

「ちょっと、悟浄。」

「わりぃ...」

気が付いたら自然と蓮実の腰に腕を回していた。

「びっくりしたっ。」

平手でも飛ぶかと思ったが蓮実は目を見開いて硬直していた。



「やっぱ変だよ、悟浄。」

「変じゃねぇよ。お前が惑わしたんだ。」

「...ごめん、だって似てるんだもん。」

「でも俺じゃ代わりになれないだろっ!」

「悟浄もね。あたしじゃ代わりにならないよね。
 解かってるよ。」

何解かってるんだよ....と言いかけて言葉を飲んだ。

蓮実の腰に手を回した時に勢いで抱きそうになったのは何故だろう。

自分の恋愛感情と言うものは一体何が基準でどれが正常なのか

訳がわからなくなってきた。

でも答えは好きなら好きでいい。

それしかない。







「あたし一人じゃこう言う所入れないから嬉しい。」

蓮実がはしゃいでいたので、連れて来て良かったと思った。




久々の小春屋は何も変わっていなかった。


ただ今日は隣に三蔵じゃなくて蓮実がいる。

日替わりと一品料理を二、三頼んで一杯やった。

店主夫婦に「彼女かい?」とからかわれて「身内みたいなもんです。」と

答えたが、実際慈燕と結婚でもすれば義姉になるからまんざら嘘でもなかった。

「悟浄とだと緊張しないで食べられるんだよね。」

どっかで聞いた台詞だと思ったら、前に三蔵にも言われた言葉だった。

「俺、癒しオーラでも出てる?」

「今日は70%くらいね(笑)」




帰り道は小春屋で飲んだビールの所為で二人とも程よく酔いが回っていた。

勢いに任せて自然と口数が多くなる。

「蓮実、もしかして兄貴に告ったの?」

「うん。」

「兄貴どうだった?」

「暗中模索って感じ。やっぱあたしじゃダメなのかなぁ。」

「あいつ慎重で不器用だから、先の先まで考えてんだよ。
 しょーがねぇなぁ、もう変に大人は。」

「最近の悟浄だってなんか大人してるじゃん。」

「俺は違うよ。まだ青いぜ。」

「だって一人で抱え込んで悩んでるもん。」

「悩みなんてねぇーよ。」

「嘘だ。三蔵さんのこと好きでしょ。」








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