38:地下鉄


見るからに神経質そうな三蔵は

決して畑になんか寝転ばないと思っていたが

予想を裏切りなんの抵抗もなくさっさと横たわっていた。


よっぽど普段の疲れが溜まっているのだろう。

三蔵はすぐに寝息をたて始めた。

菜の花の黄色と三蔵のシャツの赤と葉っぱの緑が信号みたいだ。

「いただき。」

一人言をいいながら悟浄はシャッターを押す。


優しかったり、そっけなかったり三蔵は気まぐれだ。

今日の誘いもOKもらえたのが逆に驚いた。


出会った頃のほうが、もっと自然に接していたような気がする。

ぎこちなくなるのが怖くて小春屋からも最近わざと遠のいていた。


それは悟浄が変に意識し始めたからなのかもしれないが

そんなことに気付いているのかいないのか

三蔵は気持良さ気に眠っている。

悟浄は辺りの風景を何枚か撮ると三蔵の横に寝転んだ。

ゆっくりと雲が流れている。

時間と同じようにゆっくりゆっくりと...



少し寝返りを打った三蔵が悟浄の胸元に入り込んだ。

「...三蔵...三蔵?」




三蔵の髪の香りが風に乗って舞う。

「おいおい。」

起きる様子がない。

安心しきった寝顔がいつもの眉間に皺寄せた三蔵と対照的でほっとした。

自分と居る時くらいリラックスして欲しいと思っていたから。

暫くこのままで居させてやるか。


悟浄も目を閉じてみた。

雲雀の鳴く声が聞こえる。

絵に描いたようにのどかだな。


30分も経っただろうか。

先に悟浄の目が覚めた。

三蔵はまだ寝ている。



菜の花色にも似た三蔵の髪の毛が眩しかった。

悟浄は軽く髪を撫でてみた。

さらさらと指を通り抜ける細い髪だ。


その瞬間三蔵の体がビクっと反応して起き上がった。

「頭になんか付いてたか?」

「ああ。蝶が止まった。起こしてしまったなワリィ。」

とっさに出た嘘を疑いもせず三蔵は大きな伸びをした。


「そうとう疲れてんだな、俺。」

「疲れてるからって篭ってばかりじゃ体に悪いぜ。

 お前太陽に当ってなさそうだもんな。」

「俺はモグラか。」

「モグラっつーよりどっちかっつーと地下鉄だな。三蔵は理系でハイテクだから(笑)」

「言ってろ。」

「三蔵喉渇かねぇ?」

「渇いた。」

「来た道に確かコンビニあったよな。」

「ああ。ビールでも飲むか。」

「喧嘩売ってる?なんなら帰りは三蔵が運転でもいーんだけど。」

「断る(笑)」
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